寺嶋美穂さんは、現在、INALCO(国立東洋言語文化学院)の日本語学科に通う19歳。ご両親はともに日本人だが、パリで生まれ育った美穂さんは、バリバリのバイリンガル。
美穂さんと話をしていて感心してしまうのは、フランス語は当然にしても日本語もほぼ同じく母国語レベルということ。イナルコの翻訳のクラスでも、日本語の微妙なニュアンスの表現を的確にフランス語で言い表せるということで、先生からも絶大な信頼を得ているほどだ。
フランスで生まれ育った人にとって難しいのは、やはり漢字と敬語。どうやって克服したのかを問うと、「親が家に招く人には、必ず敬語で接するように躾けられました。漢字の習得には、新聞を読むようにしています」。日本語は、日本に滞在した小学校の3、4年生の時の2年半と中学3年の時の9カ月の間に集中して勉強した。実際に日本で見て学んだことは、今、大きな強みとなっているので、これからバイリンガルを育てようという人にも、子供は日本に行かせてあげるのが一番ですとアドバイスする。
「バイリンガルだからできて当たり前」と思われて困ることも多いのではと問うと、「むしろ、期待されるのは嬉しいです。困ることはありません。お陰で興味深いアルバイトも紹介してもらいました」。週末などには、シャンゼリゼにあるトヨタのショールームで受付をしている。愛くるしい笑顔と、日仏語に加えて英語でも応対できるという彼女にはぴったりの仕事だ。ここでも客への応対に敬語の必要性を実感しているという。
目下の悩みは国籍の選択。将来どこで暮らすかが決まっていないので、選択はむずかしい。生まれ育ったフランスにはいつでも戻れるという安心感もあり、フランス国籍がなくての不便は選挙権ぐらいなので、現時点では両親の国である日本国籍の保持を予想をしているところ。
小さいころはバレリーナになるのが夢だったが、今は国連などの機関での同時通訳になりたい。そのためにもこれから英語を専門的に学ぶ予定だそうだ。外国に生まれ育ちながらしっかりと日本人としてのアイデンティティーを持つ美穂さん、ご両親ならずとも彼女の今後の活躍が楽しみだ。(里)