「ロワール川をながめていると、ワイン造りへの情熱が新たにわいてくるんだ」
数年前にDomaine La Paonnerieを訪れた時、ジャックさんは「時間があるようならロワール川を見てもらいたい」と誘ってくれた。車で5分ほど行くと急に視野が広け、ロワール川の岸に出た。思ったより流れが速く向こう岸が遠い。
「ロワール川は、朝、かすみの中に沈んでいる時とか、夕方近く、陽とともに光がオレンジに傾く時がいい。今は静かに見えるけれど、雪どけや大雨の度に氾濫(はんらん)を繰り返してきた。岸辺に住んでいて洪水の度に家具を二階に上げるのに嫌気をさした祖父が、その家を売り払ってDomaine La Paonnerieを買ったんだ。(…)今でも舟を持っていて釣りをする。ウナギ漁のかごも仕掛けるが、以前の10分の一くらいしかとれない。捕獲のし過ぎもあるし、下流の港湾工事でロワールの流れが速くなって、大切な泥や砂が流出している」とジャックさんは、少年時代の、魚にあふれていたロワール川をなつかしむ顔になった。(真)