ここ数年来度々上演され、「現代劇の定番」になりつつあるナタリー・サロートの舞台劇だが、今回は98年に国立コリーヌ劇場で上演されたジャック・ラサル演出の舞台の再演で、初演時と同様、ユーグ・ケステールが主演のひとりとして登場している。 腹心の友、男1が放った「それはいいね」の言い方に傷つき、その友との距離を保とうとする男2と、なぜ男2が自分から離れようとするのかがわからずわけを探りにきた男1が交わす会話は、「それ」が何を意味するのかがわからなくても、ひとつの言葉、一片の文章が他人に与える印象や個々の解釈の違い、そこから生まれる様々なドラマの可能性を教えてくれる。ふたりの男の言葉のやりとりは、ただ「それ」だけには終わらず、隣人夫婦を巻き込んだ挙げ句、人生観に及び、そして相手への非難の直球が飛び交うまでに発展する。滑稽でもあり深刻にもとれ、核心がないようで核心をついているこの作品を執筆しながら、作者のサロート自身はどんなに楽しんだろう、と想像する。人間が日々悩み苦しむ問題の中には、かくも正体不明で根拠のない些細なことだってあるのだ。そしてそのことを理解しながらも、悩み、苦しみ、議論することに生きがいを見出す人々が世の中にはゴマンといる。この男1と男2のように。8月末まで。(海) *Theatre de l’Atelier : 1 Place Charles Dullin 18e 01.4606.4924 月‐土/21h 土マチネ/18h ●Pueblo Horno |