恐怖特集

伝説や言い伝えは本当に怖い?

キリストは「魂は不滅だ」と説いた。だから、死者が現世に戻って出没することは十分ありえる。では誰がいったい fantomeや revenantとなってこの世に戻ってくるのだろう。一般的には非業の死を遂げた人、殺された人、自殺者または神の恩寵を受けずに死んだ人が幽霊や亡霊となって出没する、といわれている。幽霊はいつも死装束をまとっているわけではなく、家族や隣人の前には生前の服装で現れ、赤の他人の前では死装束に身を包む。またその姿は目に見えるとも限らず、小さな音をたてたり、物や家具を動かしたり、石を投げたり、という方法でも自らの存在を主張することもある。同じ幽霊でもfantome は類語 revenantより形がはっきりせず、また revenant が遺族の目前に出没するのに比べ、この世の「喜び」を憎むfant冦e は、どこにでも、また誰のもとにでも出没し、災いを引き起こすといわれている。 日本では、暑い夏に涼しさを与えてくれる幽霊は欠かせないけれど、カトリックの国では日本のお盆に相当する万霊節が11月2日にあたり、この時期と待降節、そして4週間後のクリスマスに幽霊たちは懐かしい家族に会いに里帰りする、と信じられている。ただ、地方によっては「土曜の零時に死者は戻ってくる」(ピカルディー地方)とか「火曜の夜」(ブルターニュ地方)という迷信があるから、暑い最中に幽霊と出会うことが全くないともいえない。それに、近頃は幽霊も旅をするのか、ヒッチハイクをする幽霊に出会った、という証言がかなりの数出ているというので、夜道でのハイカーはいくら魅力的でも拾わないほうが(他の危険もあるし)賢明だろう。 幽霊が現世に恨みや名残を残して出現するのであれば、世界中で有名な吸血鬼ドラキュラだってその好例といえる。この伝説の源になった Vrad Tepes (Dracul IV) は、15世紀に竜 dracul の騎士称号をもらった父親にならい、ルーマニアの地方統制に力を尽くすが、彼の存在が邪魔になったハンガリー王の陰謀にあい、最後には殺害される運命をたどる。そしてその死後、彼が悪魔に魂を売り吸血鬼になった、という噂が流れるようになる。フランスでは17世紀末になって「夜になると生き血を吸いに蘇る死者」の噂が東ヨーロッパを旅した旅行者から流れ始め、その後出版された数々の証言や研究が王族や貴族たちを震え上がらせたが、18世紀半ばにオーストリア女王マリア=テレジアが医師Swietenへ依頼した吸血鬼研究が、吸血鬼伝説は通俗的な恐怖を与える大衆的信仰に過ぎない、という結論を出してから火が消えたように騒ぎが静まった、という。 その後いくつもの小説が吸血鬼を扱ったのでここで紹介するのは控えるけれど、もしも夜道で吸血鬼とすれ違った時のために一般的な吸血鬼像を記しておこう。顔は青白く、とがった耳、妙に赤い唇の間からは腐敗したような口臭を吐き出し、やせた体の肌は冷たく、毛深いその手の先には爪を長くのばして…結構どこにでもいそうな男性像だけれど如何?女子供が狙われやすい、というので心当たりのある人は気を付けましょう(夫を吸血鬼にもつ未亡人もいるらしいので、男性諸君も御用心)。 満月の夜を避けて行動する吸血鬼とは全く反対に、Loups-garous (狼男)
は満月の夜にだけ活動する。ただ死者の蘇った姿ではなく、生きた人間が狼の姿を借り、奇妙な叫び声をあげながら生肉を探し回るという。人狼は古代から存在しており、中世紀には魔女狩りと同じく狼男狩りもさかんに行われ、大勢の人々が疑われ処刑された。 こんな話ばかり探していると、フランス人の迷信深さに驚くとともに、夜や暗闇が、それに満月まで怖くなってくる。
気分を変えようと家にある『狂気−歴史と辞書』(La folie / Robert Laffont刊)をめくってみた。精神科医グループによって編纂されたこの本によると、幽霊とは「最近他界した近親者の存在を感じること、記憶に残るその近親者の姿を強く思い描くことにより起こる感覚」、吸血鬼信仰は「殺人や死体食嗜好のサディズムと結びついた奇妙な行動」とあり、また狼化妄想は「狼に自身が変身するという妄想をもつこと、または人間が狼に変身しうると思い込むこと」と説明されている。なんだ、すべては普通の精神状態を脱した時に起こる現象だったのだ…と自分にいいきかせつつも、半信半疑でまだ恐々毎晩床についている。

(海)

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