
進行した不治の病にある人が死ぬことを希望した場合、それが支援される権利を保証する法案が5月27日に国民議会で賛成305票、反対199票で可決された。安楽死や自殺幇助(ほうじょ)が議論になって久しいフランスでは大きな前進。法案は秋に上院で審議され、再び国民議会で可決すれば成立する。
この法案は中道政党Modemのオリヴィエ・ファロルニ議員が提出したもの。昨年4月に国民議会に提出されたが、6月の解散により審議に至らず、ここまで持ち越されていた。
可決された法案によると、患者が「死の幇助の権利」を認められるのは以下の5つの条件をすべて満たしていなければならない。
①重篤で不治の病にかかっている
②病気がかなり進んだ段階/最終段階であり、回復の見込みがない
③患者自身が自由で明確な意思を表明できる
④耐えられない身体的・精神的苦痛がある
⑤18歳以上で仏国籍か仏在住者である。
患者は「自殺」の意思を医師に伝えると、医師や看護師、専門家から成るグループが協議し15日間以内に認めるか否かの決定を下す。認められれば患者は自分で致死物質を注射するのが基本だが、それが無理な場合は医師や看護師に助けてもらうこともできる。医師らは「良心に基づいて」幇助を拒否する権利もある。インターネット上での偽情報伝播も含めて「死の幇助の権利」を妨害すれば最高で禁固2年、罰金3万€に罰せられる。
左派や中道(与党)は概ね賛成、右派の共和党や極右の国民連合(RN)は概ね反対だったものの、同じ党派内でも意見が分かれた。自ら死のタイミングを選ぶ自由を支持する意見がある一方で、信仰上の理由による反対、子どもや近親者の負担になることを恐れたり介護付きの高齢者施設に入る費用がないために死を選ぶ人もいるとする反対意見、苦痛を緩和する終末医療のキャパシティー不足のほうが問題、と喧々諤々(けんけんがくがく)の議論が起きた。
さらに「病気がかなり進んだ段階/最終段階」という条件はあいまいだという声も上がった。そこで、国民議会では高等保健機関(HAS)が4月末に勧告した条件の定義「生活の質に影響を与える健康状態の悪化により不可逆的プロセスに入ること」が法案に盛り込まれた。また、「耐えられない苦痛がある」と判断することができるのは患者本人のみとされた。2005年と2016年の現行法では、延命治療やある種の医療行為の継続を患者が拒否する意思を前もって表明することが可能だが、今回の法案では患者が死にたい意思を前もって医師に伝えることができない点にも問題があるのではと指摘されている。
ヨーロッパでは不治の病の患者の自殺幇助や安楽死を認める国が、先駆けのスイス、オランダ、ベルギーに加えて近年ではオーストリア、ドイツ、イタリアなどと増えており、仏国内での尊厳死を求める動きの高まりから、マクロン大統領は以前から「死の積極的幇助」を約束してきた。今回の法案が成立すれば、将来、安楽死への道を開くことに続いていくのか、長い目で注目していきたい。(し)

