
パリ首都圏(イル・ド・フランス地域圏)の空きオフィスを住宅に改修するという国のプロジェクトの募集に対し、101件の応募があり、61件のプロジェクトが選考に残ったと、同地域圏の知事*が4月9日に公表した。プロジェクトが実現すれば、住宅不足に悩む首都圏に朗報となりそうだ (*日本では知事は住民により直接選出されるのに対し、フランスでは官選知事。政府が選んで派遣する「地方長官」に値する)。
この募集は2025年4月に国と同地域圏の知事が実施したもので、パリ近郊の市を中心に61件が選考に残った。選ばれたプロジェクトには、低中所得者向けの社会住宅の開発や解体に資金を提供する基金「FNAP」などから補助金が支給され、改修工事許可の取得も優遇される。もし61件のプロジェクトが実現すれば、約8200軒の住宅(うち半分は社会住宅)が創出されることになる。たとえば、イヴリーヌ県のルシェネ市ではメルセデス・フランスの旧本社が約100の学生用住宅に、セーヌ・エ・マルヌ県コンブ・ラ・ヴィル市では旧公文書保管庫を改造して200室の学生寮ができる。
オフィスの過剰な建設、コロナ禍をきっかけとしたテレワークの普及などにより、空きオフィスの増加は問題になっている。フランス第1のビジネス地区であるラ・デファンスとその周辺の市ではオフィス全体の25%が空きオフィス。クリシー、パンタン、バニョレ、サンドニなど北の近郊でも27.3%という高い数字だ(ただし、パリ市内では2.9%と低い)。
とくにラ・デファンスを擁するオー・ド・セーヌ県は、首都圏全体の空きオフィス500万~600万平米のうち270万平米を占めるが、ラ・デファンス地区では2040年までに空きオフィスを改修して1700~3000軒の学生向け住宅および、1200~2850軒の家族向け住宅が造られる予定だ。こうした住宅の増加により、夜は殺伐としたイメージもある同地区に小規模スーパーやパン屋、商店、学生や家族向けの文化施設や必要な設備ができてビジネスと生活が融合されることが期待されている。
いずれにせよ、パリ市内はもちろん、地方都市や首都圏でも住宅不足、家賃高騰が問題になっているため、住宅件数が将来増えることは朗報だ。たとえば、パリ市では民間賃貸物件は1982年の58万9404軒から2021年は49万3891軒に減少(-16.3%)。2011年から2020年にかけては年間約8000軒のペースで減少した。2010年頃までは住宅購入が増えたのが減少の原因だが、その後は観光客向けの短期貸しが増えたり、住宅の熱効率規制の強化などにより貸し物件が減少し、それに伴って平均家賃は2001年の15.1€/㎡から、2024年は27.2€/㎡と2倍近くに跳ねあがった。首都圏全体では88万8150世帯が社会住宅への入居希望リストに登録しており、入居できるのは2年から10年後といわれる。公的な社会住宅の建設がなかなか進まないなか、既存の空きオフィスを住宅に改修する考えは魅力的に思える。(し)



