『Mr Victor』
バルバラは、1948年にエディット・ピアフを聴いてシャンソンこそ自分の道だとさとる。パリ音楽院に近いカフェなどで歌いはじめたのだが、1950年2月にベルギー行きを決める。ブリュッセルやシャルルロワのキャバレーで歌ったりしたが、やじられるばかり。生活しのぎに売春もしたが、歌のためという目的があったから恥じることはなかった。「愛のシスターになることも、歌うことも、修道女になることも、結局同じこと」。1951年6月フランスに戻ろうとヒッチハイクをしていると、ヴィクトール氏が運転するクライスラーがとまる。
この紳士は売春婦の元締めが本職なのだが、レストランでオムレツを頼んでくれたりする。「歌手なんて仕事じゃない。コネが必要さ。なんなら… 」と誘われるが「私は歌いたいの。それが私の人生」とことわる。そのいきさつを明るく語り歌っているのが 『Mr Victor』。(真)
「Je n’ai pas oublié ce café chaud sur la route du nord (…) Monsieur Victor, vous aviez un coeur d’or. 私は忘れない、北の街道で飲ませてもらったあの熱いコーヒーを。ヴィクトールさん、あなたは黄金のハートの持ち主だったわ」(拙訳)