数週間くらい前からか、ミラが急に自分をおとしめるようなネガティブ発言を多く口にするようになった。「私はかわいくない」だの「頭が悪い」などなどだ。私もジルも、ほめながら子育てをしている方だ。家ではほめられることが多いのに、学校では友だち関係で上手くいかなかったりと、ままならない人生にぶつかり、自己嫌悪に陥るのかもしれない。とはいえ、そんなのは万人が通る道、私は気にしないでいた。
ところが繊細なジルは気にしている。そしてある日、「ミラのネガティブ発言の理由がわかった!」と興奮して電話をかけてきた。なんでも、私が妊娠中に強く男の子を欲しがっていたせいなのだと説くのだ。吹き出しかけたが、一応説明を聞いてみる。「胎児だって母親の気持ちがわかるんだ。だからミラに『妊娠中は男の子が欲しかったけど、生まれてきたら女の子で本当に良かったと思ってる』って言うべきだ」とのたまう。これだから「フランソワーズ・ドルト*原理主義者」は困るなあ、とあきれたが、懇願されたのでしぶしぶ承諾。言われた通りにしてみた。ミラはただ黙って聞いていた。
しかしその後、なぜか彼女のネガティブ発言は止まったのだった。たまたまなのか? 謎である。いずれにせよ、これがジルの説のおかげだとは、なんとなく認めたくない自分であった。(瑞)
*有名な児童心理学者。551号の本特集でも紹介。