原作はド・ラクロの小説『危険な関係』。ドイツ人劇作家のハイナー・ミュラーは、貴族社会における腐敗した男女関係と恋愛ゲーム『カルテット』を描くのに、中心人物二人の会話だけで構成される二人芝居を書いた。軸となるのはヴァルモン子爵とメルトゥイユ公爵夫人の一騎打ち、ヴァルモンは公爵夫人を敬う反面、彼女への憎しみをつのらせ、老いを恐れる公爵夫人はヴァルモンを軽蔑しながらも彼の気を引こうとする。 3年間の工事を終え、この春美しく生まれ変わったオデオン座で上演中のこの戯曲を演出するのはロバート・ウィルソン。イザベル・ユペール、アリエル=ガルシア・ヴァルデスが公爵夫人とヴァルモン役を演じ、二人の想像とも幻惑ともつかない存在として若い男女二人、狂言回しのような役割を演ずる老人が登場する。ウィルソンといえば、コメディ・フランセーズの『ラ・フォンテーヌ寓話』の演出を覚えている人はいるだろうか? スタイリッシュ、衣装、照明、音響、そして振付と呼んでいいほどに役者の立ち振舞にまで気を配る。能や歌舞伎を意識した拍子木の音、見得を切るような仕草、単調に繰り返される念仏のような台詞がリズムを刻む。また台詞は叫びや早口言葉にしばしば代用され、耳をつんざくような音響の一部と化していく。 1時間半の公演なのに、観た後に「ふーっ」とため息が出るのは、舞台全体を包む不思議なエネルギーから解放されたことへの安堵からだろうか。割れるような拍手と「ブラボー!」の歓声がユペールとガルシア・ヴァルデスに。二人もさぞかし疲れただろうなーと思うのは、私があまりにも俗世界に生きているからだろうか…。(海) |
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