『 Tokyo Eyes 』 監督 : ジャン=ピエール・リモザン
特に日本かぶれではないフランス人が一言の日本語も喋れないのに、東京に乗り込んで、武田真治と吉川ひなのという今時のアイドルを使って撮ってしまった映画が『Tokyo Eyes』だ。若者の町、下北沢を、撮影監督、ジャン=マルク・ファーブルが自ら担いだステディカム(画面が揺れないように工夫された手持ちカメラのシステム名)が闊歩する。 ヴァーチャルな世界に生きる若者Kは許しがたい行為を目にすると黙認できず、そいつが行ないを改めるように、細工したピストルを突きつけて脅かすという孤独な犯罪 (?) を繰り返している。Hinano (役名も)は、美容院でバイトをする天真爛漫な娘。刑事である兄が、その愉快犯 (?) の捜査にやっきになっている最中にKと出くわす。何かを感じた彼女は彼の後をつける。兄を助けるための探偵行為か、それともKに惹かれてのことか分からないまま、二人はぐ~んと接近する。恋にも似た感情が芽生える一方で、自分がしていることが正しいのか Hinano は悩む。Kは彼女に出会ったことで、しだいにヴァーチャルな世界から現実の世界に引き戻されて、自分の前にいる実態である Hinano を愛するようになる。が、彼には独特のモラル感があって、彼女との距離には一線を画したままだ…。 監督のジャン=ピエール・リモザンの観念的な世界が、東京という実態とあいまみれて『Tokyo Eyes』は生まれた。日本人が日本語を喋っているから日本映画かと思って観ていると、普通の日本映画とはどこかが違う。視点が、同国人が同国人を見るのとは違うから当然だ。かといって、外国人が見た日本のステレオタイプに陥ってないところが良い。真に刺激的な二つのカルチャーのせめぎ合いの中から生まれた不思議な映画だ。
(吉)