パリでは一日に平均10本の撮影が行われているという。長編&短編映画、テレビドラマ、CMやビデオクリップなども含めた数だが、やはり絵になる花の都だけはある。
数カ月前、筆者もフランス映画のエキストラ体験をした。指定されたホテルに行くと、様々な国籍のエキストラが30人ほど集合していた。みなそれぞれ上着、帽子、マフラーを余分に持ってきている。経費削減のため、同じエキストラを別のシーンに何度も使えるよう、外見のバリエーションを増やすための苦肉の策だ。
コンコルド広場近くのショーウインドーをのぞくイザベル・ユペールとミカエル・ニクヴィストの撮影から開始。筆者も通行人としてカメラの前を横切ったが、ブーツがかつかつ音を立ててしまい、カメラマンに「うるさいなあ」と渋い顔をされる。結局10回以上はテイクを繰り返し、ようやく終了した。
その後、お待ちかねの昼食タイム。マドレーヌ寺院の足元には、白テントの簡易食堂ができていた。エキストラにも、前菜、メイン、デザートのフルコースが出た。仕事中でもみなワインを飲む。さすがフランスだ。向かいのテーブルのおじさまは「定年退職して暇になったから、よくエキストラをしてる」のだとか。隣からは「俳優の○○はエキストラにもワインをついでくれた」、「○○はアメリカ人のエキストラだけに優しかった」などのうわさ話ももれ聞こえてくる。そもそもなぜレストランに行かず、わざわざ仮設食堂を設置するかと聞くと、一度に50人から80人の人間を受け入れられるレストランは少なく、かつ撮影は時間が読めないことが多いためだという。
午後は、まず地下鉄内での撮影があったが、筆者は控え室で2時間ほど待機。スタッフからは「映画は待つのも仕事」と諭される。そして夕方になり、ようやくチュイルリー公園に移動し再び通行人役に。空の色が変わってくるので心配だったが、こちらも10テイク以上撮ってようやくOKが出た。
今回、さして重要には見えないシーンでも、想像以上に撮影には時間がかかることが実感できた。エキストラはワインまで飲んで気楽だったが、制作者と俳優たちは大変そうだった。(瑞)
暖かそうな帽子をかぶっているのが主演のイザベル・ユペール。
大きな白テント内の仮設食堂。フルコースでワインも出る。