
パリ・アラブ世界研究所(IMA)のジャック・ラング所長(86)は2月7日、同所長職を辞任する意思があるとする手紙をジャン=ノエル・バロ外相に送ったと明らかにした。外相はただちにIMAの取締役会を招集して所長代理の選出を行うよう指示した。エプスタイン文書から明らかになった疑惑のために政界から辞任要求が高まっており、大統領や首相からも説明を求める要請が出ていた。
フランス文化相としての業績。
ラング氏は1981~86年と88~93年、ミッテラン大統領時代の文化相として文化政策を推進したことでよく知られる。夏至の日に公道などでだれでも音楽を披露できる「音楽の日」や、歴史的建造物などを市民が無料で見学できる「文化遺産の日」を創設。さらに、グラン・ルーブル計画、新凱旋門、バスティーユ・オペラ、新国立図書館などミッテラン氏の「グラン・トラヴォー(大事業)」の実現に大きく貢献した。2013年からはIMA所長を務め、自身のネームバリューと人脈を利用して国内外からメセナを集めてIMAの発展に大いに貢献したが、ワンマンという批判もあり、2023年にはマクロン大統領が所長交代を試みたが、ラング氏は受け入れなかった。
ところが、去る1月30日、少女買春の罪で2008年に有罪となり、2019年にも未成年への性的虐待の疑いで逮捕され勾留中に自殺したジェフリー・エプスタイン氏に関する捜査資料が米司法省により新たに300万点以上公開された(エプスタイン文書)。その中にラング氏とその娘とエプスタイン氏が親密な関係だったことを示す資料があったことが判明した。
エプスタイン氏は「友人のひとり」
ネット新聞メディアパルトなどの報道によると、ラング氏と娘キャロリーヌさんはエプスタイン氏とともにタックス・ヘイヴン(租税回避地)のバージン諸島に2016年にオフショア会社を設立し、そこから文化関係プロジェクトの資金を調達していた疑いがあるという。また不動産売買に関しても脱税の疑いがあるとして経済犯罪検察局が予備捜査を開始することも6日に明らかになった。
ラング氏は「ラング=ミッテラン時代」に関する映画製作プロジェクトでエプスタイン氏から5万7897€の寄付を得たことは認めているが、その他の非難は当たらないとして、今後の捜査でそれを証明してみせると意気込でいるという。ちなみに、キャロリーヌさんは独立映画製作組合のトップを2月2日に辞職した。
ラング氏は当初、辞任の可能性を強く否定していた。7日の外相への手紙では「個人攻撃や根拠のない疑惑に憤慨と嫌悪を覚えるが、IMAのために辞任する」と自身の潔白を強調。2012年頃にすでににウッデイ・アレンの紹介でエプスタイン氏と出会った際には彼の犯罪については全く知らなかったとし、友人の一人にすぎず、親しい友人ではなかったとした。しかし、ごく親しい友人しか招かない自分の誕生日に同氏の出席を強く促したり、車や自家用飛行機を同氏に借りたりしたことが公開文書から明らかになっている。キャロリーヌさんについては、エプスタインの遺言状に500万ドルを贈ると書かれているが、彼女はそれを受け取っていないとしている。
社会党内からも批判の声
古巣の社会党のフォール第1書記や重鎮のセゴレーヌ・ロワイヤル氏らもラング氏のIMA所長辞任を求めていた。フォール氏は、2月4日にラング氏がテレビで「あんなに礼儀正しく、魅力的で寛容な人間にそんな忌まわしいことができるだろうか」とエプスタイン疑惑に対して未だに驚きを露わにしたことにとりわけショックを受けたと発言。ドパルデュー、ポランスキー、ウッディ・アレンらの性的暴行や児童性愛疑惑でも彼らを常に擁護してきたラング氏は、そうした罪を断罪する社会の常識からまったく乖離してしまったのだろうか。(し)
