開幕当初から、折り畳み傘とコートが手放せないすっきりしない天気が続いたのですが、本日(5/22)のカンヌは気持ちの良い晴れ模様です。5月21日にはマーティン・スコセッシ監督、レオナルド・デカプリオ、ロバート・デニーロらが出席する『Killers of the Flower Moon』の記者会見がありました。筆者はジャーナリスト最後の一席で、なんとか滑り込むことができました。
本作はデイヴィッド・グランによるノンフィクション『花殺し月の殺人 ー インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』が原作。油田の開発が進む米オクラホマで、石油利権を持つ先住民オセージ族の人々の連続不審死事件が基になっています。
デニーロは地元の有力者、デカプリオは彼の甥でオセージ族の女性と結婚する男の役を務めました。犯罪捜査のドラマですが、会見でスコセッシが「誰が加害者かより、誰が加害者でないかを描いた」と語ったように、曖昧な人間像の造形が興味深い作品です。
前日のプレミア上映ではスタンディングオベーションが長く続き、映画の評判は上々!筆者は関係者への忖度いらずの隣の会場で見ましたが、上映後の拍手に嘘はないと感じました。もともとカンヌがコンペ入りを熱望していた作品ですが、製作サイドの都合で今回はコンペ外での参加に。スコセッシ作品にしては脚本の映画の感もあり、演出はかなりオーソドックスなのでパルムドールに相応しいとまでは思いませんが、コンペ入りしても遜色なしの見応えある秀作でした。
製作はApple TV+ ですが、フランスでは10月20日から劇場公開も。3h26と長尺なので、劇場で集中してご覧になることをお勧めします。
さて映画はとても良かったのですが、会見では気になるひとコマも。ロバート・デニーロがいきなりトランプ前大統領を揶揄し始めたことです。映画との繋がりはあまり感じなかったので、かなり唐突感がありました。
「私たちは今日悪の凡庸さを目にしているが、注意しないといけない。みんな誰のことか知っているが、彼の名は言わない。この男は愚かだ」。そう言いつつも、結局デニーロは「トランプ」の名を出しました。
権力者を揶揄するのは大変結構。しかし、なぜかハリウッド左派の映画人たちは、現大統領のバイデン・ファミリーの悪事には完全スルーなので、バランスが悪いなと思ってしまうのです。映画祭の役割とはなんぞやと、もやもやした気分で会場を後にしました。(瑞)