のんべえの心得
フランスで、カフェやワインバーなどにぶらりと入り込んで、楽しく飲み続けていくためにはどうしたらいいのだろう? 答えは、ちょっとした心づかいと観察力です。
まず、お店に入ったたら、カウンターの後ろでテキパキ動く人に、聞こえる声で「ボンジュール!」ときちんと声をかけること。そして向こうから笑顔付きの「ボンジュール」が戻ってきたら、幸先がいい。サービスする人が少なめなところなら、テーブルに座って飲みたい時でも、カウンター前を通るときに、「アン・ドゥミ・シルヴプレ!」と注文すると、待ち時間も短くなるし、向こうだってちょっとは助かるでしょう。もう一杯飲みたい時でも、自分のグラスを指差しながら、カウンターに向かって「ラ・メム・ショーズ(同じものを)!」と声をかければ足りてしまう。
テーブル席がいっぱいなら、カウンターで立ち飲みになるが、「パルドン」と言いながら入り込む。そこが少し混んでいたら、パリのカフェに慣れていない観光客のようにカウンターと平行に立つのではなく、肩を斜(はす)に入れる感じで立つのが、一人でも多くの人が飲むことができるようにという心づかいだ。カウンターに片ひじを置いてグラスをあおる常連たちの姿は、みごとにサマになっている。
チップで悩む人が多い。サービス料は込みになっているのだから、別に置かなくてもとがめられることはない。でも、店の人が親切だったり、ピーナッツやオリーブをおつまみとして出してもらったり、行きつけの店だったりする時は、5%から10%置くものだ。たとえば3.5ユーロのビールを飲んだら30セントか。かといって、1セントや2セントの赤い硬貨をポケットから出してジャラジャラッと置くのは避けたいものだ。それくらいなら置かない方がいい。〈ラ・リベルテ〉とかで、プラムの蒸留酒をほすと、「セ・ル・カドー!」などと言いながら、もう1杯おごってくれたりする。そんな時は気前よくチップを置けば、むこうもこちらもニコニコ顔だ。
いい気持ちになって、さあ帰ろうかという時には、「メルシ、オルヴォワール」を忘れないようにしたい。
こんな風に一つの店に何度か通っていくうちに、あなたも感じがいい常連となって、お店の人と握手するようになり、一人で出かけても、くつろいで飲むことができる。
最後に、常連になっても、一つのカフェに長居して酔っ払い状態になることは避けましょう。なにごともほどほどが大切。これもパリっ子はよく心得ているから感心してしまう。(真)