舞台用の仮面職人
演劇の町アヴィニョン生まれで、母は陶芸家というアラリック・シャニャールさん。職業は舞台用の仮面作り。これまでZéfiro、Roquettaなど、数多くの劇団と仕事をし、パリ郊外のパンタン市にアトリエを構える。制作は、毎回が新しい挑戦。作品ごとに舞台監督と方向性を決め、取りかかる。「難しいのはバランス。表情は作り込み過ぎてはいけない。俳優が表現できる余白を残すのが大事」。仮面という存在は、そこにあるだけで、舞台に決定的な影響をもたらす。いつだって、単なる小道具ではありえない。「仮面という動かないものが、人間という動くものに影響を与えるのが素晴らしい。そこから魔法が生まれる。神話やスピリチュアルな次元にも誘ってくれる」
世界に仮面文化は多い。イタリアのコメディア・デラルテ、日本の能、アラリックさんが愛して止まないタイのランダRangdaなど多種多様。フランスにはニースのカーニバルがあるが、仮面文化はそれほど強くない。国内で仮面職人として生活できるのは、太陽劇団の仮面を作るエアハルト・シュティフルら、片手で数えられる程度だ。アラリックさんですら、職人以外の仕事を強いられる厳しい世界。でもこの分野に可能性も感じている。「近年マリオネットの分野は、専門学校やフェスティバルの創設で繁栄している。仮面もさらなる発展を仕掛けられるはず」。そんな思いを込め、2008年には仲間同士の連帯を強化すべくアソシエーションを立ち上げた。最近は映画とのコラボレーションも経験したばかり。今後の展開に期待できそうだ。
アラリックさんおすすめの、仮面を使うカンパニーは? と尋ねたら、「ルイユ・マルメゾンのZéfiro、ベルリンのFamilie Flöz。スイス人の舞台監督オマール・ポラスも仮面をよく使う。パリにいると、素晴らしい公演が見られますよ」という答えが返ってきた。(瑞)
Atelier Alaric Chagnard : 2 rue Berthier 93500 Pantin
アトリエ見学会の詳細は
www.tourisme93.com/visites/offrez-des-visites/1533-alaric-chagnard-sculpteur-de-masques-pour-le-theatre.html
アラリックさんの仮面を使うZéfiroの次回公演は、シェイクスピアの『La Tempête テンペスト』。
8月30日~10月26日迄。
Vingtième Théâtre : 7 rue des Plâtrières 20e
01.4865.9790
木彫りの仮面は、作るのに5日かかる。
まずはデッサンでイメージを具体化する。
彩色にはラングドック=ルシヨン地方の 黄土(オークル)を好んで使う。