パリの地下鉄の乗り換え通路では、無料ライブが百花撩乱。日夜、通勤・通学者や観光客の耳を喜ばせている。誰しも一度は、流れくる演奏に耳を傾けたことがあるのではないか。彼らはRATP(パリ交通公団)から許可を受け活動する地下鉄ミュージシャン。当初は、ゲリラ演奏の増加に手を焼いたRATPが、「追い出す代わりにチャンスを」と、97年に立ち上げた登録制度。以来、音楽祭と提携してミュージシャンを派遣したり、音楽エージェントの代わりを務めたりと、新しい才能を世に出すお手伝いをしてきた。今を時めくWilliam Baldé、Pep’s、Zazも、地下鉄ミュージシャン出身だ。
オヴニーは今回、春と秋の年2回開催されるオーディション現場に潜入した。各セッションで千組の応募があるが、バッジの数は300と決まっているので倍率は3倍超。3分の2が初挑戦で、3分の1は更新組。11区にある専用スペースで、挑戦者は15分間に2曲のレパートリーを披露していく。トップバッターはマラウイ人青年がボーカルの3人組ジャズバンド。爽やかなオリジナル曲を演奏してくれた。審査員は2人。内容は全て録画され、後日他のスタッフも視聴した上で判断が下される。演奏後には簡単な質疑応答が。審査員は「キーボードが入ると完璧」「○○音楽祭を狙うとよい」など、誠実かつ具体的なアドバイスを送っていた。
その後は、ギター片手にボサノバを歌うブラジル人ソロ男性、スペイン人とトルコ人で編成されたフラメンコバンド、何度もバッジを更新済みで余裕綽々(しゃくしゃく)のコートジボワール人2人組ソウルユニット、フランス人とイギリス人学生による初々しいロックバンドが続いた。挑戦者は国際色豊か。全体的にレベルが高いことにも驚いた。みなギャラも出ないのに、なぜ地下鉄を目指すのだろう。挑戦者のひとりが教えてくれた。「演奏するのは目的地に向かう途中の人たちの前。足を止めさせるのは難しいし、反応は容赦ない。だからこそプロを目指すのに、地下鉄は最高の学校になるんだよ」(瑞)
Espace Métro Accords : 01.5877.4074
ソウルユニット「GNATTO & Guélaté」は11番線近くのシャトレで会える
クラシック、 ロック、レゲエ、ジャズと 多様なライブが 聞ける。
Charonne通り102番地の専用スペースでオーディション
地下鉄ミュージシャンにたくさん会えるのは、バスティーユ、シャトレ、モンパルナスなど乗り換えの多い駅