「30年前の台の部品の注文にも対応できます」
カフェや公園などで時おり見かける「ベビーフット」。サッカー選手の人形が付いたバーを操りゴールを目指すゲームで、日本では「テーブルサッカー」とも呼ばれる。発祥には諸説あるが、1930年代にマルセイユの自動車工が、孫のために作ったものが最初と言われる。
パリ近郊のバニョレ市には、半世紀にわたりベビーフットを作り続ける会社がある。ボンジニ社の社長、ジェラールさんによると、会社そのものは1927年にジェラールさんの大伯父が創設した。長らく精密部品やビリヤード台を作っていたが、50年代にジェラールさんの父の代となり、ベビーフットの製造に興味を持った。「当時出回っていたベビーフットは、人形を操る金属バーを前方に押すと、そのままバーが相手側に飛び出し危なかった。だから父は部品製造の知識を活かし、相手側に飛び出さないバーを作ったのです」。1959年に発表されたこのB60モデルは、安全性の高さで多くのカフェが支持し、たちまち定番商品に。驚くのは、B60が今も現役であることだろう。クラシカルなデザインも飽きがこない。「30年前に買った台の部品を求め、問い合わせてくるお客さんにも問題なく対応できます」と、ジェラールさんは余裕の笑顔だ。このご時世、いざ電化製品を修理しようと問い合わせすると、「部品はない」「買い替えた方が安い」などと言われ、釈然としないまま新製品を買うはめになることも多い。思わず本当のサービスとは何なのか、考えさせられてしまう。
ベビーフットはカフェ文化の繁栄とともに、60〜70年代に全盛期を迎えた。だが60年代に25万店あったカフェも、現在は5万5千のみ。カフェのチェーン店ばかりが増え、ベビーフットが似合う昔ながらのカフェは姿を消しつつある。しかしベビーフットは、新たな道を歩き出した。個人宅、学校、老人ホームやスポーツクラブなどに置かれるようになったのだ。出版社や電話会社、電力会社といった企業が、社員のストレス軽減や雰囲気改善のため、オフィス内に設置する例も増えている。「いつの時代でも人は集い、楽しみたいという気持ちだけはなくなりませんからね」(瑞)
台を組み立て中です。
バービー人形の「バービーフット」は アート作品。10台以上は生産できない。
半世紀以上の歴史を誇るB60モデル。