「私たち、警察に脅されたから結婚したのよ」。話し上手のモニックさんは、少し芝居がかった口調で言った。兵役の代わりに2年間モロッコで教師をすることになった恋人のミシェルさんと一緒にいるため、自らも教師としてモロッコに出向く許可を得たモニックさん。ところが、出発の数日前に「独身女性は25歳になるまで海外で教師として働いてはいけない」と警察から通知が。あわてる両親を尻目に、若いふたりは何の迷いもなく結婚したという。
運命の出会いはリールの大学図書館。ともに社会学者になるこのカップルの二人三脚は、学生の頃からすでに始まっていた。お互いの論文や原稿を読み、意見を交わし、刺激し合う。平坦ではない研究の道を、励まし合い、支え合いながら乗り越えてきた。勤め先のCNRS(フランス国立科学研究センター)にもそんな研究事情を説明して許可を得た上で、ふたり揃って全く同じ内容の年次レポートを提出してきたそう。1989年以降共著を発表し続け、日本でも『Paris mosaïque(パリの万華鏡)』が翻訳出版されている。フランスの富裕層に注目した数々の著作でよく知られ、中でもフランス前大統領をテーマにした『Le président des riches(金持ちの大統領)』は広く話題になった。
この本の執筆中、ふたりは地中海沿岸のキャンピングカーに1カ月間こもり、原稿を音読しては推敲にあたった。長い共同作業中には、時には険悪になることも。そんな時は、キャンピングカーから飛び出して海岸を走ったり、海でひと泳ぎしたり。そして、「ああ、なんて私たちは愛し合っているのだろう!」といつもの上機嫌を取り戻しては、気を取り直して仕事を再開したそう。またある時には、ベルギーの海岸を80km徒歩で突破。それぞれ小さなキャディーに原稿を詰みこみ海岸を歩き、疲れたら立ち止まり、ここでもやはり原稿を音読。「そんな僕たちを、波とカモメが聴いていたんだ」と、いかにも楽しそうに目を細めるミシェルさん。
今までに、フランス国内はもちろん、世界各地へ精力的に旅をしてきたふたりは、旅先での面白おかしいエピソードに事欠かない。カップルのきらきらした歴史が刻まれている旅の話の数々に、思わず時間を忘れて聞きいってしまった。偶然にも、この号の発行日はおふたりの45回目の結婚記念日。「Félicitations!」(さ)
これから相手に期待したいことは?
「今までずっと長い間そうしてきたように、これからも連帯していてほしい」(ミ)「私も彼に同意です」(モ)
前回のバカンスは?
「5月に初めてロット県へ。様々な町を見て回った」(モ、ミ)
夢のバカンスは?
「オーストラリアの中心にある砂漠の街アリス・スプリングへ。世界の果てのようなところ」(ミ)「ヴェネズエラやボリビアなど、またラテンアメリカへ行きたい」(モ)
最近、二人で出かけたイベントは?
「メランションとルペンが大統領選挙を戦ったエナン・ボモンへ行ってきました。この地の変遷の理由を探りに」(モ、ミ)
お気に入りのレストランは?
Au Pied de Cochon (6 rue Coquillière 1er 01.4013.7700)
「24時間営業だから、朝4時にオニオンスープを、夕方6時に海の幸盛り合わせを食べたりできる。名物は豚肉料理」(モ、ミ)
カップルとしての満足度を5つ星でいうと?
★★★★★「彼は素晴らしい。ハンサムだし、興味深いこと、大事なことを言ってくれる。私は心底幸せ者よ」(モ)
★★★★★★「彼女はパレスホテルよりも上、6つ星です」(ミ)
ふたりの人生と仕事は、旅と切り離せない。