「対セクハラ法案」に次いで「売春廃止論」が政治家やフェミニストの間で論議されている。6 月24日、ヴァロー=ベルカセム女権相が売春廃止構想を表明して以来、全国の売春婦たちが「有史以来一番古い職業を廃止するとは ! 」と怒り、7 月6日、リヨンで抗議デモをくり広げた。
売春婦(夫)は全国に1万8千人から2万人いるが、その85%は東欧、アフリカ、中国からの不法入国者だ。30年前くらいまでサンドニ街がパリの「赤線地帯」だったが、今は環状線区域やブローニュの森周辺に拡散し、ライトバンを止めて車中を利用するインディペンデントの売春婦の増加が住民の間で問題になっている。
6 月中旬、リヨンで売春斡旋容疑で中仏カップルが摘発された。32歳の中国人女性がアパートに3 週間監禁され朝から晩まで売春をさせられていたという。「美人東洋女性マッサージ」などの広告とも無関係ではなさそう。90年代からアルバニアやルーマニア、ブルガリアなど東欧の若い女性たちが、ベルリンやパリ、リヨンでウエイトレスの仕事に就けるとマフィアにだまされて売春奴隷にされている。今年2 月に公開された映画『Elle』(マルゴジャータ・シュムフスカ監督)では、ルポライター役のジュリエット・ビノッシュが、東欧からパリに留学し学費を稼ぐためにケータイで買春客とコネクトしていた女子学生の体験を追っている。
フランスでは1946年に女性投票権の制定と同時に売春宿maison closeが廃止された。1949年国連の人身売買・売春取締り協定をフランスは1960年に批准し一応売春廃止国となっているが売春は禁止しておらず、03年治安法により路上での客引きを禁じている。違反者は懲役2カ月と罰金350€。昨年12月には買春客に対し懲役6カ月と罰金3000ユーロを刑法に加えた。さらにヒモや斡旋業者には懲役7〜20年及び罰金15〜300万ユーロ。蛮行や拷問を加えたヒモには罰金50万ユーロ。15歳未満や心身障害のある売春婦を買った客には懲役3〜7年と罰金4万5 千〜10万ユーロ。未成年売春を求める海外セックス観光客は滞在時期にさかのぼって罰せられる。
スウェーデンは1999年から、ノルウェーは2008年から全てのセックスサービス利用客に所得に比例する額の罰金と最長6カ月の懲役刑。スウェーデンではこの10年間に売春が半減し、利用客も13.8 %から7.8 %に減り、売春婦も2500人から1250人に半減したと政府は大満足。しかし社会学者オーギュスタン氏によれば、売春需要度は以前と変わらず、客引きはインターネットに移っただけで売春婦は外から見えない隠れた存在になり、それだけ彼女らが被る性暴力の被害が増えているという。英国、フィンランドなどは売春を強制された女性を買った客にだけ罰金刑を科す。
一方ドイツ、スペイン、オランダ、スイスは売春を「社会的サービス業」として認可している。売春婦を性暴力の被害者とみなすフランスの法務相と女権相は、北欧諸国に習って売春を社会悪とし利用者を取り締りたいのだろうが、すでにかなりの売春婦がスペインなどに移住している。フランス人男性客も国内で罰せられるよりは、と気軽に国境を越えて欲求を充たしているようだ。(君)