パリ地下鉄の利用者は一日約500万人。欠かせぬ町の風景だから映画にだってよく登場する。「地下鉄で撮影される長編は年間約30本。テレビや短編も含めればさらに増えます」。説明するのはRATP(パリ交通公団)の撮影担当カリーヌさん。映画の企画があれば撮影場所を探し、製作側の希望とマッチング。「混雑する1番線と4番線を提供するのは困難。乗客が少なめの6番線、10番線は敷居が低め。特に車両が地上に出てエッフェル塔を望める6番線は人気が高い」とか。ただし日中の撮影は一般客の邪魔になるし、終電後から早朝までの夜間は時間が限られる。そんな時に便利なのがポルト・デ・リラ駅。一般客は入れない撮影専用ホームがあるのだ。訳アリで閉鎖された「幽霊駅&ホーム」はパリに数十カ所存在するが、ここもそのうちのひとつ。60年代から撮影専用ホームとして静かに活躍してきた。この隠れホームに足を踏み入れると、50年代の地下鉄路線図や駅員用スペースがそのままに残り面白い。時おり11番線を走る電車の音が響いてくるが、一枚壁を隔てれば半世紀前のレトロなホームが広がっているとは、忙しいパリジャンには想像しにくいだろう。
「レールを敷いたトラベリング撮影や古い時代の電車を走らせることも可能。脚本に合わせ全く違う駅に変えられるから大作の撮影に便利です」。例えばジャン=ピエール・ジュネの『アメリ』ではアベス駅、『パリ、ジュテーム』のコーエン兄弟のパートではチュイルリー駅、ジャン=ポール・サロメの『Les Femmes de l’ombre』ではコンコルド駅に早変わりした。今後もヴァネッサ・パラディ主演『Café de Flore』をはじめ、アサイヤスやスコッセッシの新作など、本ホーム撮影の話題作の公開が続く。ホームの華麗な変身ぶりにも注目だ。(瑞)
ポルト・デ・リラの撮影専用ホームは文化遺産の日に公開。また毎月見学会も。
詳細はwww.tourisme93.com/visites/
ポルト・デ・リラ駅は地下19mにあり、 「階段でも良い絵が撮れる」とか
レトロな趣きがある構内。ゲンズブールの 「リラの門の切符売り」がいたはず!?
ポルト・ド・リラ駅の 入り口は工事中でした。
味わいのある 50年代の地下鉄路線図。