村上春樹『ノルウェイの森 』をトラン・アン・ユンが映画化して話題を呼んだ『La Ballade de l’impossible』(仏題)がいよいよ公開になる。原作ものの映画は原作との比較で語られがちだ。各自が原作に対してもつイメージや思い入れと映画になった時の落差は当然あると思う。
監督もまた一読者として原作から受けたインスピレーションから映画を発想しているわけで、これは個的な領域。物事に対する印象というのは決して一般化はできない。いずれにしろ、映画は映画単体一つの映画作品として論じるべきだと思う。映画『ノルウェイの森』は凛(りん)としてヒリヒリと痛い。そして非常に美しい。甘酸っぱい青春物語ではなく、真剣な青春物語。愛に正面から挑んだ青年の話。一人称の主人公、ワタナベを演じる松山ケンイチは噂に違わず本当に魅力的、男っぽく、かつ繊細で、とてもセクシー!
ワタナベは自分の感受性に溺れることなく相手を思う。直子と緑。直子(菊地凛子)は、自殺した親友キズキの幼なじみで恋人だった。ワタナベとキズキと直子は無邪気に仲良しな三人組だった。突然一番大切な人を失った残された二人の再会。二人は決してキズキのことを口にしない。直子の20歳の誕生日の夜、喪失感を埋めるように求め合う二人。そして沈黙が破られる。しかし翌朝直子は姿をくらませていた。直子は癒えることのない傷を心に負っている。大学で一緒の緑(水原希子)がワタナベに好意を示す。彼も彼女を可愛いと思う。やがて京都の療養所に居るという直子から連絡が入る。二人の女性への気持ちと正直に向き合おうとするワタナベだったが…。全編を貫くトラン・アン・ユンらしい徹底した美意識と厳しくも甘美なストーリーが融合する映画空間にすっかり酔った。(吉)