夏にミラを連れて東京に一時帰国して良いものか悩んでいる。日本で被災された方のことを思えばふざけた悩みに違いない。まずはジルに相談。原発大国フラ
ンスは事故への関心も高く、メディアでは時おり厳しい論調も目立つ。ジルとて決して楽観的ではなかった。「ミラと一時帰国?
絶対にダメ!」と譲る気配はない。良くも悪くもいち早く日本から脱出を決めたフランスだけはある。仮にジルの意見を無視して、ミラと一時帰国をしたらどう
なるだろう。フランスでは離婚後にも親権は両親にある。だから例えば母親が父親の承諾なしに子どもを国外に連れ出すことは刑罰の対象だ。ひどい時には誘拐
犯扱い。もしや私もそのパターンに足を踏み入れかねないのではと、嫌な想像も広がる。
しかし日本には今も友人や家族が住んでいて日常を取り戻す
べく頑張っている。こんな時こそ励ましに帰るべきでは?
そんな熱弁をふるってみると、ミラは「そうだね」とうなずく。「でもパパが怒るよね」と言えば、また「そうだね」とうなずく。ここで「じゃあ、どっちがい
いわけ」などと7歳の子をなじる私は、相当病んでいる。そして内心、ミラを心から心配するジルの言葉に安心を覚える自分もたしかにいるのだ。
3.11以降は、やけに当たり前の日常の有り難さが身にしみる。フランスでも原発に関する根本的な議論がもっと活発になってほしい。(瑞)