『手ヅクリ家Chibiru』という一風変わった肩書きをもつキキちゃんが住んでいるのはパリのすぐ隣町アニエール。サン・ラザール駅から電車でほんの数分だし、夜中も1時過ぎまで電車はあるので、パリ市内に住んでいるのとほとんど変わらない感覚だ。それでいて駅のホームを降りると、ちょっと地方都市のような、ジャック・タチの世界のような、懐かしくおっとりとした空気が漂っている。町並みはパリ市内の一角と変わらないが、行き交う人々の雰囲気が全く違う。道路工事の人、カフェのお客さん、目が合うだけで挨拶されるなんてパリよりも人間の温度が1°C高い気がする。昔ながらの構えの小売店ばかりが並ぶのも嬉しい。そういえば、お店の看板や標識のロゴタイプは60-70年代そのものだ。それらは当時のまま現役で使われているわけだが、今時風に綿密にコーディネイトされたお洒落なファサードのように見える。
手ヅクリ家であるキキちゃんがつくるテディベア、編みぐるみ、人形らにはどれも愛嬌が溢れ、何だか話しかけられている気がしてくる。それは一針ずつに彼女の想いと魂がフッと吹き込まれているからだろう。初めてテディベアを作ったのは19年前。当初はアドリブだったが、元々洋服づくりをしていた彼女、テクスチャーやパターン起こしにどんどんのめり込んでいったそう。現在はテディの他にニット、レース編みの人形や小物、アクセサリーもつくっているが、常に彼女らしさを感じる一貫したテイストが息づいている。
キキちゃんはトイカメラやポラロイドを持って街を歩くのも大好だ。日常のアニエールの街角をカメラに刻み込んでいく。そこに写されているのはキキ色メガネで見たカラフル・ノスタルジックな街。カメラを持っていると街の住人とも違った関わりができると言う。「今あそこにとても奇麗な花が咲いているのよ」と声をかけられたり。あてのない散歩もカメラを持つことで偶然の出会いに導かれていくのが楽しそうだ。(久)
カラフル・ノスタルジックな街。
キキちゃんがつくるテディベア
愛嬌が溢れる人形たち
彼女の想いと魂がフッと吹き込まれている
アクセサリーもつくっている
アニエール名物ドゴールとマルローの彫像。