「僕の『旅好きウィルス』は親からうつされたんだ」。現在、パリはあくまでも基本居住地であるが、ディディエさんの「旅」は今も続いている。1980年か
ら13年間、ミケランジェロの時代から彫刻家たちを惹きつけてきたイタリア大理石の産地トスカーナのピエトラサンタに住み着き、イサム野口や安田侃ほか世
界中のアーティストと深く交流した。「目前に地中海、背後には大理石の山。そこではお金なんかなくたって、アトリエで制作をしては毎日バールで芸術談義を
交わして楽しく暮らしたさ。皆それぞれのお国なまりのイタリア語で、地元の石工労働者や年寄りたちとも混ざり合ってね」。19世紀末、20世紀初頭のモン
マルトル、モンパルナスのような芸術家コミュニティーが、つい10数年前までそこでは繰り広げられていたのだ。聞けば聞くほど幻想を抱いてしまいそうだ。
ボヘミアンでノスタルジックで無国籍風なディディエさんの作風と現在の人間性は、ピエトラサンタ村で形成されたのが伝わる。
現在のピエトラサンタはどんな?と尋ねると「悲しいことにサントロペみたいになっちゃったさ」。リゾート開発の波にのまれ様変わりしてしまったそうだ。
そのディディエさんが1993年に定住地として見つけたのはパリ15区バラール周辺。アンドレ・シトロエン公園と共に、パリに残されていた土地が開発され
た一角。建物最上階、アトリエ・ロフトの大きな窓から見える広い空間は、多くの緑と近代建築が入り混ざる有機とも無機ともつかない景色。「都会のようで田
舎みたい、面白いところでしょ?」。気分がニュートラルになれるような、きっと制作に打ち込める環境である。そして魅力なのは、すぐ隣に伸びるサンシャル
ル通り。近代建築の裏、典型的古き良きパリの活気ある通りには、豊富な食品小売店がギッシリと並び、毎週火曜、金曜には朝市も立つ。「ここで新鮮な食材を
仕入れ、ピエトラサンタで覚えた料理の腕を友人たちにふるまっているよ!」とディディエさん。(久)
Didier Hagège さんの作品はベルギーの画廊が扱う。 www.pascalpolar.be
二極の顔持つカルチエで制作
世界中の都市で個展を開催
モロッコの数都市にて
作品はどれも大きいサイズ
Didier Hagège さんの作品はベルギーの画廊が扱う。