● Dernière station avant le désert
「くそっ、もう3日も車一台通らねえ、商売上がったりだ!」と初老の男が叫ぶ。舞台のバーでは、厚化粧の中年女が退屈そうに雑誌を読んでいる。少し離れたテーブルでは若い男がクロスワードパズルに没頭。表は日差しの強い昼下がり。三人の会話から、初老の男はアメリカの、砂漠の入り口にあるガソリンスタンドの主人で、女は妻、若い男は夫婦の使用人だということがわかる。妻と使用人は愛人関係で、夫を憎悪する妻は、若い男に夫を殺してくれと懇願するが、戦地から奇跡的に生還した元兵士の若い男は戦場での恐ろしい体験に取り憑かれ、殺人行為に踏み切れない。テネシー・ウィリアムズの『欲望という名の電車』を思わせるストーリーと雰囲気の作品だと思って見ていたら、話は別な方向へ急展開。三度のどんでん返しにハラハラ、苦笑しながら舞台は幕を閉じた。
テキサスで初演された際、「アメリカにつばを吐くのか!」、「軍隊を冒とくするのか!」という糾弾や酷評を浴び、作者ラニー・ロバートソンは州を退散する羽目になったという。戦争が人間に与える傷はもちろんのこと、戦争で傷ついた兵士を宣伝材料にしたり、利用して金儲けをしたりする偽善者たち、また元兵士たちは、彼らの手にひっかかって操り人形のように「英雄」に仕立てられ、そのことへ何の疑問も感じなかったりする。これは、本作品でほのめかされるベトナム戦争だけではなく、すべての戦争から派生する事実だろう。そしてその皮肉な事実が今でも世界のどこかで生み出されている、ということに作者は憤りを感じてこの戯曲を書いたのだと思う。演出はジョルジュ・ヴェルレール。11/20迄。(海)
Théâtre du Petit Saint-Martin :
17 rue René Boulanger 10e 01.4202.3282
火-土20h30、土マチネ17h。17-30€。