国立小学校の受験結果を待っているころ、偶然知人経由で、パリの貸し物件の話が舞い込んできた。聞くと環境、家賃、広さと条件は申し分ない。素晴らしい情報に心を奪われた。現在のステュディオは、狭さといい、陽当たりの悪さといい、空き巣事件といい、住み続けるのが精神的に限界なのだ。もちろんあれだけあこがれた学校の受験結果も気になる。ただし合格したら郊外への引っ越しは必至。郊外とはいえ学校近くは高級住宅街で、家賃の高さは目が飛び出るほど。また一部屋のステュディオ住まいとなるだろう。
さあ、どうしよう。仮に学校に受かったとしたらすべての面で私の負担は重くなる。遠くに住むジルはあまり当てにできない。そしてこの問題は突き詰めると「自分は何のためにフランスにきたのか」という問いにまでぶち当たる。子供に最高の教育環境を用意したいけど、子育てを理由に自分のやるべき仕事から逃げてはいないか? そんなことを考えると暗澹(あんたん)たる気分にもなる。そうこう考えるうちに、ついに受験結果が届いた。なんと合格だった。いよいよアパートをとるか学校をとるかで、頭を壁に打ちつけたくなるほど悩んでしまう。早速ミラ本人に「どうしたい?」と聞いてみる。すると、パリのアパートも国立の小学校も「どっちもスキ」だけど、「ママが思うのは私も思う」から、「ママが選んでいいよ」と答えるのだった。(瑞)