ミラの友だちのルーシーが、我が家に遊びに来た時のこと。彼女は本棚から絵本を見つけ、気に入ったので家に持ち帰りたがった。私はミラに「最近この本は読んでないんだし貸してあげな」と促した。すると、たまたま居合わせたジルが、「勝手に決めるな。ミラの意見を聞こう」と言った。そして結局、ミラは「貸したくない」と答えたため、絵本を貸してあげないことになってしまった。ジルとしては、子供でも一人の人間として意見を尊重するのが重要だ。一方、私には、場合によっては子供の意見を無視してでも、親切にすることを教える方が重要だ。もしかすると、フランスにはワガママ人間が多く、日本には自分の意見が言えない人間が多い理由の一端は、この辺りに隠されているのかもしれない。どちらが良いとは一概には言えないだろう。
しかしどうも納得がいかない私は、次の日ミラに聞いた。「ママは、なにもあなたがいつも聞いてる『ベベリリー』のCDを貸せとは言ってない。あるのをずっと忘れてた絵本くらいお友だちに貸せないのは、母ちゃん情けない。もしあなたが大きくなって、子供ができたら、友だちに絵本を貸せない子がいいの?」。そしたらミラはちょっと考え、「貸せる子がいい…」と呟いた。私は内心「ふふ、でかしたミラ」と、ほくそ笑む。しかし、ジルの陰で裏工作をしているようで、どうも後味は悪いのだった。(瑞)