フランスのほぼ真ん中に位置するシェール県ムアン・シュル・イエーヴル。世界遺産の大聖堂で名高いブールジュからも近いこの町に、日本人作家による吹きガラス工房がオープンした。代表の岡本暁史さんは巨匠伊藤賢治氏に師事した後、2003年に渡仏。妻の悠倫子さんと製作活動を続けてきた。消防署跡を改築した彼らの工房を訪ねる。ギャラリー兼ショップには、作品が陽の光を浴び、りんとした面持ちで並ぶ。その中で目を引くのが、足の曲がったワイングラス。よく見ると内側に可愛らしいトゲが。「これはソムリエと共同開発した〈Verre pic a vin(トゲ付きワイングラス)〉です」と暁史さん。トゲのおかげでワインが空気に効率よく触れ、風味が引き立つ。曲がった足は?「失敗作から偶然生まれた形」と笑う。だが持ちやすく実用的で、なんといってもユニーク! 今では看板商品のひとつだ。ではこのグラス作りを実演して頂こう。 まずは溶解炉に吹き竿を入れ、ガラスの素を巻き付け、息を吹き込んでいく。ガラス工芸には、型を使った〈型吹き〉と、型を用いない〈宙吹き〉があり、フランスはバカラを筆頭に〈型吹き〉が強いが、暁史さんは、より作家性を表現できる〈宙吹き〉にこだわる。それから、バーナー、洋バシ、紙リンなどを使い、グラスの形を整えていくのだ。この間、夫婦コンビは、あうんの呼吸で手際よく作業を進める。「基本的に共同作業。皆と汗をかき、タイミングが合った時が一番嬉しい」。最後は徐冷炉に入れ翌日まで冷まし、完成。 さてこの後、吹きガラス体験をさせてもらったが、これがハマりそうな面白さ。どうも瞬間の判断力が決め手のようだ。優柔不断の私にはハードかしらん?「作品にはそれまでの人生が出ます」。イチロー似の暁史さんから、鋭い直球が飛んできた。(瑞) J VERRE : 5 bis rue Henri Boulard |
これぞ吹きガラスの醍醐味の一つ。妊娠5カ月の悠倫子さん。 お腹の赤ちゃんと頑張ってる模様。
11月にカルーゼル・ド・ルーヴルにも出品。銀箔を使用したりと、日本的な技工との融合も暁史さんの作品の魅力。 |