パリで唯一、人形の修理アトリエ– 病気の子供を治してあげる気持ちです。 N° 619 2007-10-15 11区を左右に二分して伸びるパルマンティエ大通りの114番地。色白の子、リンゴほっぺの子、泣き出しそうな子、謎の微笑を浮かべる子、帽子がお洒落な子。ショーウインドーからは、人形たちが顔をのぞかせ、通行人にご挨拶中。ここはパリ唯一だという人形の修理アトリエだ。 中に入ると、無数の人形に囲まれ黙々と仕事を続けるアンリさんがいた。「仕事の喜び? やっぱり病気の子供を治してあげるような気持ちになれることかなあ」。人形専門のお医者さんとなって、はや40年以上。もともと手先が器用であったアンリさん。かつては革製品、鞄、傘なども直していたというが、使い捨て文化がすっかり広まった現在、それらをわざわざ直してまで使う人もぐっと少なくなり、結果的に人形専門のアトリエになったのだという。ここで扱う人形は玩具用ではなくて、コレクション品として飾っておける高級なものばかり。だからお客さんは子供ではなく、年配の方が多い。 注文はフランス全土からやってくる。だいたい月に50体くらいは直すから、月曜日から金曜日まで働きっぱなし。今年80歳になるアンリさんには大変なのではないだろうか。「引退? 考えたこともないね。働けるうちは働くだけさ」。針金のような工具を手に、人形の頭をぐりぐり探りながらきっぱりと答える。「仕事は誰からか教わったものではないよ。自然と自分で覚えてしまったのさ」。それからおもむろに、後ろの棚から箱やビニール袋を取り出して順に見せてくれた。「見てごらん、これが人形の目で、これが髪の毛だよ。この髪の毛はね、cheveux naturelsだよ」。金髪に輝く髪の毛は、特別のアトリエだけで入手できる本物の髪の毛なのだという。しかし、提供者はいったい、どこの誰なのだろう? 妄想が頭を駆け巡る。 棚には長い時間をかけて集めてきたお人形の目や髪の毛がぎっしり詰まっている。人形を的確に再現し、新たに命を吹き込んであげられるのも、これだけの種類があってのことなのだ。これだけあれば、たいていの人形は直る(治る)のだとか。でも日本の人形は無理ですよね?「直してみせるさ!」自信たっぷりのアンリさんが、力強く言い放った。(瑞) ●Réparations et Restaurations Poupées anciennes : 114 av. Parmentier 11e 01.4357.0902 Recommandé:おすすめ記事 セーヌ河岸古本商・ブキニスト 「大変だが、自由がある」 現代アラビア書家 — 絶妙なバランスの綱渡り。 オーガニックワインを作っている醸造所を訪問。 クリスタル製品の彫り職人 — 職人のプライドが まぶしい。 俳優が表現できる 余白を残すことが大事。 –帽子成形用の木型職人 — 曲線へのセンスが大切。