Anna Gavalda 作家 パリの街で人間観察。

 中学の国語教師だった。子供たちが寝静まった後、こっそり書きためた短編『泣きたい気分』が、口コミで話題を集める。2作目の『ピエールとクロエ』がベストセラーになり、一躍売れっ子作家の仲間入りを果たした。
 小さなころから「本の虫」だったガヴァルダさんにとって、図書館は最も心和む場所。中でも、ポンピドゥ・センターをはじめ、リヴォリ通りの装飾美術館や、ガリエラ・モード美術館など「美術館にある図書館は、素晴らしく美しい内装の中で、思いがけない本に出会える」。登場人物の職業を研究するため、多くの時間を、この閉ざされた空間で過ごす。
 好きなカルチエは学生街。rue des Ecolesのブラッスリー〈Balzar〉では、時を忘れて人々の声に耳を澄ますこともある。「私の仕事は、80パーセントが人間観察よ」。カフェやメトロや道ばたに転がる、日常のありふれた断片をすくい上げる。「なぜこの人はここにいるの? 幸福なの? 不幸なの?」と想像を駆け巡らせながら。タクシーには乗らない主義。ささやかな物語を求めて、街を歩きまわる。
「人生は真っ黒でも、バラ色でもない。ほんの少し明るめのグレーかな」というガヴァルダさんが書きたいのは、「人生そのもの」に限りなく近い事柄。人づきあいで一番大切なのは、調和のとれた関係に加え、奥ゆかしさだと思っている。だから「人々が大声で話す南仏には住めないの」。ベストセラー作家になった今も、パリ郊外の田舎町ムランに住み続けるのは、パリでのストレスに溢れた生活から逃れるためだ。「だけどパリから遠くへ離れてしまいたくはないの」
 そんなガヴァルダさんにとって、パリの魅力は?「街自体の美しさはもちろん、いたるところで文化を肌に感じられるところ」。そしてこの小さな街に、商業的、文化的、庶民的と、色んな要素が凝縮して集まっている点も気に入っている。しかし何といっても「パリジェンヌ! その小粋さや軽やかさは、パリ最大の魅力だと思うわ」。どの外国に出かけても、パリジェンヌを見かけたら、すぐに見分けがつくという。魅惑的な身のこなしや、自己を知り尽くした着こなしで、後姿がすでに、パリそのものを物語っているのであろう。(咲)

●Maison de Balzac
 パリ市内に住む気は全くないガヴァルダさんが、唯一ここなら、と思う場所。1840年から7年間、バルザックが当時愛人関係にあった、ポーランド貴族のハンスカ夫人と暮らした。夫の死を待って、夫人がバルザックの求婚に応えたのは1850年。なんと彼が亡くなる半年前のことである。そんな劇的な物語を背景に、都会にあるとは思えない田舎家風の佇まいを見せている。エッフェル塔を望む、庭からの眺めも素晴らしい。
47 rue Raynouard 16e 01.5574.4180 10h-18h 、月休。


デモとメルゲーズの切っても切れない関係。 

もうすぐメーデー。今年はCPE反対運動が実質的な撤回を勝ち取った勢いで盛り上がりそうだ。デモといえば、必ず登場するのがメルゲーズ。メルゲーズの焼けるにおいをかいだだけで、思わずプラカードを持って表に出るという条件反射をしてしまうフランス人もいるとかいないとか。
なぜメルゲーズなのか? ある労組関係者によると、保存が容易で、安価で手早く焼けて、大衆に人気のある食材だから。子羊肉と牛肉からできているため、イスラム・ユダヤ教の戒律に触れないことも強みだ。20世紀初めにアルジェリアからフランスに入ってきたといわれるメルゲーズ。いまや庶民の食卓には欠かせない。人気のあまりか、共産党の祭(Fete de l’Humanite)は「メルゲーズばかりで討論がない」という人もいるようだ。(し)