ジャック・タチほど役者の一挙一動、カメラの動き、美術の仕掛けなどを精密に計算し、完璧なカットを要求した映画監督はいない。この舞台劇は、シチュエーションが『プレイタイム』に、近代化をユーモラスに描いたところが『ぼくの叔父さん』に似ている。会話よりも物音や雑音、そして音楽に重点が置かれ、役者たちは計算された動きを披露する。
これといったストーリーはない。とある会社での日常が綴られていく。真四角眼鏡で威張り散らすヒステリックな男は社長だろう。まん丸に太った掃除夫、犬を連れて出勤する男、猫背で生気のない初老の男、いつもしかめ面の小間使いの女、鈴のようにころころと太って陽気に歌う社長の恋人、身体が異様にしなやかな若い社員それぞれが風刺画に出てきそうな特徴を外見に備えている。彼らが神妙な顔つきで送る会社生活は、私たち観客からみればギャグの連続、「待ってました!」とばかりに会場は笑いで揺れる。 脚本、演出を担当するジェローム・デシャンとマシャ・マカイエフは、30年近く共同で舞台劇を世に送り出している。このコンビはCanal+で放送されたシリーズDeschiensの生みの親でもある。そして現在はジャック・タチの作品を保護する立場にもある。だからタチの作品に似てしまったのか? でもデシャン&マカイエフは到底タチの足元にも及ばない。機械的なリズムは真似できても、笑いと同時に悲哀が漂うタチの世界は再現できない。彼らの熱狂的ファンがいる限り笑いはとれるだろう。でもお決まりのスタイルで新しい舞台劇を提案するのはそろそろ限界にきている。だから今回は「タチ」を取り入れてみました、というんじゃちょっとたちが悪い。(海) |
*Theatre National de Chaillot : 1 place du Trocadero 16e 01.5365.3000. 2月21日迄(火-土/20h30マチネ日/15h) 11.50~25€ |
●Portrait de famille
肝っ玉母さん風の掃除婦とその家族。臨月に近い長女は口ばかり達者でのらくら暮らす恋人を養い、自殺志願の長男はウン回目の自殺未遂から回復したばかり。ある日、無職の次男が結婚相手を連れてくる。気の強い未来の花嫁はイスラム教徒、母親と長女は「アラブ人なんて…」と難色をみせる。「人種差別だ!」などと驚いてはいけない。時は1950年代、パリがいくら国際的でも、今ほど異文化が浸透していなかった時代のこと。ただ時代は変わっても、母子、家族の間の愛は普遍的なもの。ドニーズ・ボナルのこの劇では、ちょっぴり甘く、そしてほろ苦く、ある家族の肖像を浮き彫りにする。演出はマリオン・ビエリー。 |
*Theare de Poche : 01.4544.5021 |
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Dance | |
●Kublai Khan Investigations
《Mecanica Popular》 この風変わりな名を持つ若いグループの舞台は、さまざまな身体表現と音楽で、世界各地から集まったダンサーたちによって創り上げられる。そんな彼らがブルガリアのソフィアに滞在した際に制作されたこの作品で、解決されない社会の貧困さや、世界各地で人々が日常感じる不安を問い、立ち向かう。彼らはお互いに異なる文化的背景、経験、思想をもとにそれぞれのアイデアを出し合う。広くこの世で起っている出来事も、そこに生きる人々個々の、かすかな声や行き交う表情、そのうつろいやすい想い、社会の末端に響く届かない声さえも拾い上げられ、すべてが糧になる。(珠) |
*Maison des Arts Creteil : place Salvador Allende 94000 Creteil 01.4513.1919 5日~7日/20h30 7~18€ |
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