“Swing”
新作が出ると勇んで観に行って、期待を裏切られることなく、この欄で多くの人に伝えたくなる…、トニー・ガトリフは(吉)にとってそんな監督のひとり。
最新作は、その名も『SWING』。ジプシー系ジャズ(ジャンゴ・ラインハルトの流れ)が映画の芯にあるから、観てると自然に身体がスウィング! 同時にスウィングは映画に登場する少年(のような少女)の名前でもある。彼(彼女)の登場には、主人公のマックス少年だけでなく我々観客もドキッ! だってこの子、中性的で本当に美しくて、その魅力に吸い込まれそうになる。
ご存知のようにT・ガトリフは、『ラッチョ・ドローム』でジプシー音楽のルーツを辿ってインドから北アフリカまで旅をし、『ガッチョ・ディーロ』ではフランス人青年をルーマニアのジプシー集団に送り込み、『ヴェンゴ』ではアンダルシア・フラメンコの心を映画に焼き付けた。『スウィング』ではチャヴォロ・シュミット(Tchavolo Schmitt)というギタリストに焦点を当てている。このギターの名手はストラスブール近郊のジプシー集団の中で暮らし世間には顔を出さない。マスメディアとの接触に興味がないらしい。だからガトリフは映画に撮っておきたいと思ったのだ。本作の流れの中で彼はマックスという10歳位のフランス人少年にギターを教える役だ。そのマックスが観客をジプシーの生活や文化に導く水先案内人を務める。
でも、それだけじゃない。マックスはスウィングに出会って、初めて本当の友情、そして初めての恋心を経験する。この過程の二人のシーンが瑞々しくて、我々をも童心に返してくれる。ちなみにジプシーには、ジタンgitan、チガンヌtzigane、マヌーシュmanoucheと色々な呼称があるのですね。 (吉)