夫婦げんかは犬も食わぬというけれど、 アル中、殴る蹴る、罵り悪態、近親相姦…と妻や子供にもおよぶ肉体的精神的虐待から、夫婦どちらかの不倫、姦通まで離婚の理由をあげればきりがない。 離婚後の親権、財産分与問題にいたるまで夫婦血みどろの「離婚係争のカリカチュア」に終止符を打ち、「21世紀の離婚は責任と理性によるものでなければならい」とルブランシュ法務相は10月9日、国民議会での離婚法改正案の討議に確固とした姿勢で臨んでいる。 同改正案は、1975年の離婚法に定められた4種類の手続を2種類に簡略化。従来の「共同申請による合意離婚*」は残り、家裁への出頭は当事者が離婚条件に異議がなければ従来の2回から1回に簡略化される。他の3種類の離婚申立て理由 (相手の過失。単独の離婚申立てに相手が合意するが条件で対立。6年以上の離別。)は「回復不可能な夫婦関係」という項目にまとめられる。どちらかが夫婦生活の破綻と認めた場合、単独で離婚申立てできるが、裁判官は当事者に最高1年の熟考期間を与え、対立が続く場合は調停委員に委託する。また夫の暴力が危険で緊急に別居を要する場合、離婚の手続前でも3カ月間の別居が認められるようになる。 今日、3夫婦の1組、毎年約23万5千人が離婚している。その調停だけで民事係争の半数を占め、その7割は妻が申立てをしている。理由としていちばん挙げられてきたのが相手の過失だ。この場合、一方的に相手の過失を告発できる。極端な例として、夫の子供への性的いたずらなどをでっち上げ提訴し、損害賠償金をも要求できる作為的離婚も可能なわけだ。過失を証明すれば8割は離婚が成立するというから、相手の過失を声を大にして言い当てた方が勝ち。映画によく出てくる私立探偵の不倫などをめぐる尾行は過失の不可欠な証拠立てのひとつだろう。改正案では、この種の離婚申立て理由が排除されるので、離婚そのものを罪悪視するカトリック教会で新郎新婦が誓い合う”生涯の貞節”も形骸化しそう。 昨年の統計によると、主婦の10人に 1人は夫の暴力に苦しみ、それを訴えるのは被害者の5%にすぎないという。この悲惨な現実に対処するため、改正案は「肉体的精神的暴力を伴う深刻な行為」を”過失”として認め、被害者は損害賠償を離婚の際に要求できるとしている。 しかしどこからが「深刻な行為」とみなされるかというと不明確で、従来の過失とたいして変わらないのでは、という批判的な声も聞かれる。一方、女権保護団体や “打たれ妻援助”協会などは、少なくともこれによって妻が被害者として離婚申立てでき、離婚事項にそれを明記できるとして重視している。 夫婦生活の破綻はどんな場合でも憎悪をともなう悲劇に終わる。係争に注がれる当事者の怨念のエネルギー。そして多くの場合、子供と父親との関係がバッサリ切断されかねない。この改正案で21世紀の離婚がクールにビジネスライクになるだろうが、子供にとって親の離別は身を二つに引き裂くことであることには変わらないだろう。(君)
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離婚申立て4種の割合 (’99) *合意離婚の場合、共通の弁護士1人を選べ、費用は約2万フラン。手続に最低1年はかかる。 |