
アシェット・リーヴルグループが子会社グラセ出版のオリヴィエ・ノラ社長を解雇したことを受け、4月16日以降、出版の独立性が脅かされているとして約170人の著者が同出版から今後著作を出版しないと宣言した。
ノラ社長(66)は、1981年にアシェット傘下に入ったグラセ出版の社長に2000年に就任したが、同じく老舗のファヤール出版の社長も務め、高く評価されている編集者だ。アルジェリアの反体制派作家で、仏極右との関係が取り沙汰されるブアレム・サンサル氏を強引にガリマール出版からグラセに移籍させたことにノラ氏が反対したとか、ファヤール出版で極右のバルデラ国民連合(RN)党首や共和党右翼のフィリップ・ド・ヴィリエ氏らの著書を手がけた編集者ニコラ・ディア氏の著作を出版するよう命じられたのに反発したためか、などと報じられているが、詳細は明らかではない。
ただ、実際に解雇を決めたのは、アシェットの親会社であるボロレグループの大株主ヴァンサン・ボロレ氏(公には会長職を退いた)とされる。ベルナール=アンリ・レヴィ、ヴィルジニー・デパント、ソルジュ・シャランドンら著名な作家170人が「ノラ社長の解雇は、出版の独立性や創作の自由を侵害するもの」で、「文化やメディア界に権威主義を強制するイデオロギー戦争の人質にはならない」と猛烈に反発し、今後はグラセ出版から本を出さないと通告した。ただし、過去の著作の出版権を持つ出版社からその権利を取り戻すのは、告訴する必要があり、かなり困難だという。
さらに他の出版社も含め、およそ300人の作家が著者の「良心条項」を認めるべきと、4月19日付「ラ・トリビューン・ディマンシュ」紙に寄稿。ジャーナリストの雇用契約には、メディアの買収などによって編集方針が大きく変更された場合、雇用者側の都合による解雇に準じた手当を受け取ることができる良心条項がある。ボロレ氏も聴取された、公共放送に関する国民議会の調査委員会の委員長だったジェレミー・パトリエ=レテュス氏は、編集者が変わった際に出版契約が自動的に解約される条項を出版契約書に盛り込むことを義務づける法案を準備中という。
フランスで11番目の富豪、ボロレ氏は2000年頃からテレビ・ラジオ局、新聞・雑誌、出版社などメディアを次々と買収し、メディア帝国を築いてきた。2010年にはヴィヴァンディに株式参入してその傘下の有料ケーブルTVカナル・プリュスを取得。続いてメディア・出版のラガルデールグループへの株式保有率を上げていき、2020年にはヴィヴァンディを通して株式公開買付を仕かけラガルデールを買収。これにより、フランス最大の出版グループであるアシェット、ラジオ局Europe 1、さらに新聞・雑誌・本を販売する駅売店「Relay」も傘下におさめ、販売網も全国展開している。日曜紙「ジュルナル・ド・ディマンシュ」、芸能誌「パリ・マッチ」などを取得した。しかも、メディアの買収のたび、編集方針に反発するジャーナリストが大量離職したり(後にCNews になったi-Télé買収では、122中100人が離職)、ストライキが起きたりするケースが多い。
ボロレ氏の編集方針は保守主義やカトリック教の推進、移民やイスラムの嫌悪で、右派と極右政党を結びつけることにも力を注いでおり、それを隠そうともしない同氏のグループへのメディア集中は、メディアの独立性にとって大きな脅威となっている。(し)

