サン・シュルピス教会裏の小道に面する扉を「こんにちは」と開けた時、まるで個人のアパートに入ったような親しみを感じた。マークさんはここで、フランスただひとつのニュージーランド旅行専門代理店を経営している。故国でも観光業に従事していたが、小さな島国での限界を感じ、「世界を見たくなって」ふらりと旅に出た。得意のバイオリンを弾いたり、英語を教えたりして旅費を稼ぎながらアジア、アフリカ、南北アメリカ、ヨーロッパをまわる4年近くの旅だった。途中で日本にも立ち寄り、埼玉県浦和市にある喫茶店に住み込みながら英語を教えた。
「日本は生活費が高くつくというけれど、安く生きようと思えばいくらでも手だてはある」夏に日本を旅したマークさんは星空の下で寝袋にくるまり、スーパーの特売品や試食コーナーを利用したという。
旅も終わり、どこかへ落ち着きたくなったとき、砂漠を除けば何でもある、という故国のすばらしい自然を少しでも多くの人に見てもらおうと思った。スイスで、という考えをあきらめ、フランスで代理店を設立したが、軌道にのせるまでは、この国の行政システムの複雑さに頭を痛めた。現在は個人や団体を相手に各人の希望に沿ったオリジナルな旅行プランを練っては提案している。
パリに住んで3年半。たった500 人しかいない在仏ニュージーランド人のひとりとして「自分の国のために何かをしている」という気持ちが、マークさんの毎日の原動力となっているようだ。(海)