2012年に報道された疑惑
カダフィ政権時代のリビアから不正に選挙資金を受けていた疑惑で、3月20日から身柄を拘束されて事情聴取を受けていたサルコジ元大統領が21日、受動的収賄、選挙資金法違反、リビアの公金横領隠匿の疑いで被疑者扱いになり、司法監視下に置かれた。軽罪裁判所に送検される可能性が出てきたことで、フランスをはじめ世界のメディアがこの件をこぞって報道した。
07年の大統領選挙の際に、カダフィ政権から計500万ユーロの選挙資金を提供されたという疑惑は、2012年にネット新聞「メディアパート」の暴露記事で発覚し、パリ検察局が13年春から粘り強い捜査を続けている。
カダフィ大佐を含む同政権の複数の幹部がサルコジ氏への資金供与を認めているほか、16年には、その仲介者とされる仏・レバノン国籍の実業家ジアド・タキエディン氏が06年末~07年初頭に当時のゲアン内相官房長に2度、サルコジ内相に一度、計500万ユーロの現金を渡したと発言。リビアからの資金提供は5千万ユーロに上るという文書もある。
リビア側関係者の中では、元石油相がスイスで不審死を遂げ、元蔵相が南アで射殺されそうになるなど、スパイ映画顔負けの暗い側面もある。パリ検察局は、元蔵相と親しかった仏=リビアの仲介者とされる仏・アルジェリア人実業家アレクサンドル・ジュリ氏(今年1月にロンドンで逮捕され、フランスへの身柄引き渡し予定)に事情聴取を行う予定だ。
事実なら、国家的なスキャンダル
フランスは、国際テロ資金提供疑惑による対リビア禁輸措置が2004年に解除されてから、盛んにリビアに兵器を販売しており、タキエディン氏やジュリ氏が、当時のバラデュール首相やゲアン氏ら仏政権側とリビア政権の仲介をして、数百万ユーロの手数料を得ていたという。当時内相だったサルコジ氏は05年にリビアを訪問し、大統領となった07年末にはカダフィをフランスに歓待し、計100憶ユーロ相当の原発、エアバス、戦闘機の売却契約を結び、親密な関係を築いていた。
しかし、11年の「アラブの春」でリビアが内戦状態になってからは、フランスはリビアの反政府派を支援し、カダフィ政権討伐のための空爆を英米とともに率先して実施した。10月にカダフィが死亡して政権が倒れた後も、ゲアン氏などはカダフィ側近を国外に逃がしたと言われている。こうしたフランスの場当たり的な対リビア政策は、闇資金確保と兵器販売という方針の元に動いていたのだろうか?
サルコジ氏はこの疑惑のほかにも、10件の疑惑の対象となっている。ロレアルの元大株主リリアン・ベタンクールさんの高齢につけこんで大金を授受していたとされるベタンクール疑惑では、被疑者となった後に証拠不十分で不起訴になったものの、2012年の大統領選挙資金確保のための広報会社への水増し請求疑惑(ビグマリオン疑惑)、判事盗聴疑惑、パキスタン兵器販売手数料授受疑惑などでは被疑者や重要参考人の扱いになっており、今後、裁判になる可能性もある。
サルコジ氏は2012年の大統領選でオランド氏に敗れた後、14年に共和党総裁に返り咲いた。16年の右派大統領候補予備選でフィヨン氏に敗れてからは政界を引退しているが、いまだに共和党の影の重鎮ではある。サルコジ氏は23日のTV報道番組のインタヴューで、「リビアの一味は犯罪者」、「タキエディンは詐欺師」とかつてのパートナーをこき下ろし、「銀行口座などの物的証拠は何もない」と容疑を否定している。起訴の成否は今後の捜査次第だが、一つだけ確かなのはサルコジ氏の政治生命はほぼ絶たれたことだろう。(し)