フランス政府は11月6日、移民受け入れに関する新たな政策を発表し、職業ごとに受け入れ目標人数を決める割り当て制を導入する方針を示した。働き手が不足している職業の外国人を積極的に受け入れ、経済活性化につなげることがねらい。一方で家族呼び寄せビザの発給条件を厳格化するなどし、経済的観点に基づいて移民政策の合理化を図る。
割り当て制で優先受け入れの対象になる職業は、自動車修理工、測量士、大工、獣医など。職業のリストは毎年更新する。出身国ごとの割合は設定しない。これらのポストで3ヵ月以上の雇用が決定していることが条件となる。1年後に更新し、4年間有効な労働許可証を発行する。
この政策の背景には、雇用のミスマッチがある。ル・パリジャン紙によると、応募者がいなかった国内求人は今年だけで15万件に。人員を補てんするために企業は外国人を雇用したいが、国内在住者では適任者がいなかったことを証明しなければならず、手続きは煩雑で企業の負担が大きい。今後は働き手が不足している職業では労働許可証発行手続きを簡素化する。政府は来年3月に目標人数を設定し、9月にも手続きの簡素化を始める考え。
一方で、それ以外の移民の受け入れは引き締める。家族呼び寄せビザの発行条件を見直し、難民申請中の外国人が公的医療保険(Protection universelle maladie)を利用できるのを申請後4ヵ月目からにする。
フィリップ首相は6日、「移民政策の統制を取り戻したい」と意気込んだ。職業別割り当て制の導入について、フランス企業運動(MEDEF)など経営者団体はおおむね好意的にとらえているが、国内失業者の職業訓練を強化し企業が求める人材を育成することが先決としている。左派政党を中心に割り当て制は「無意味」とする声も多い。難民申請者の公的医療保険利用を制限することについては、移民支援団体や医師会が人道的観点から強く反対している。
カナダなどですでに導入されているこの制度は、保守派のサルコジ元大統領が提案していたが実現しなかった。先月、極右支持者に人気の雑誌のインタビューに応じた上、自国経済に有益かどうかで移民を選別する政策を打ち出したマクロン大統領。任期の折り返し地点を迎え、弱体化している右派共和党、極右の国民連合などの支持者の取り込みに乗り出したようだ。(重)