—国立映画センター・アルシーヴ部門〈前編〉 — フィルムの保存と修復の現場を見たい。そんな思いからイヴリーヌ県ボワ・ダルシーにある国立映画センター・アルシーブ部門を訪ねた。ここは映画の保存、修復、目録作成、資料収集が主なミッション。 まずは要塞跡を使ったという保存スペースへ。私たちを楽しませてくれる劇場用フィルムは、硝酸セルロース系ナイトレート、酢酸セルロース系トリアセテート、そして現在広く使われるポリエチレンテレフタートの主に3種類。映画創成期から50年代まで使われたナイトレートは、強度に優れるが燃えやすい。だから保存には小部屋を用意し、同室での保管は最大1万5千本に限定。「温度と湿度も徹底管理。空調もフル稼働でエネルギー代が高いの」とアルシーブ部門代表のベアトリスさん。不燃性のためナイトレートに代わり登場したトリアセテートもまた保存が難しい。不適切な条件で保存すれば加水分解が進行する。劣化したトリアセテートフィルムを集めた部屋は化学反応で鼻をつく酸っぱい匂いが充満していた。 フィルムの保存が大変ならもっとデジタル化を進めればと思うが?「デジタルは普及に適した媒体。保存用には心もとない。寿命はポリエチレンテレフタートフィルムが300年なのに対しデジタルはせいぜい数年」とのこと。結局現状で「コレ」といった決定的な保存方法がなく、いまだビデオ映像からフィルムに変換するキネコ作業が肝要なのだ。とはいえフランスは文化保存の面では恵まれている方。法令で1977年からすべてのフランス映画、1993年からは国立映画センターが興行ビザを発行したすべての外国映画の保存が決定している。1991年からはナイトレートからポリエチレンテレフタートフィルムに作品を移行する大プロジェクトも15年をかけ完遂した。少なくともこの国では過去の遺産を未来の観客が受け継げる下地がきっちりとできているのだ。(瑞)
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映画の父リュミエール兄弟は元写真屋だからフィルムの保存状態は比較的良い。「50年代の作品が彼らのフィルムよりダメになっていることも多いの」
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