3月22日、パリ市主催の恒例〈パリで一番おいしいバゲット〉コンクールでグランプリに輝いたのは、アベス通りの〈Grenier à pain〉で12年前からパンを作り続けているジブリル・ボディアンさん(33)。このコンクールに5回目の参加だったが、162人のパン職人と競っての栄誉で、4000ユーロの賞金を得た。「大切なのは、生地の準備、寝かせ時間、焼き時間などを、常にきちんと守り通すことだ」と語る。
1976年セネガルの首都ダカールで生まれる。彼が4歳の時に、パン職人の父は、パリ郊外セーヌ・サンドニ県パンタン市のパン屋に職を得てフランスへ移住。その2年後に6歳のジブリルは、母や5人の兄弟姉妹とともにパンタン市へ移住。「学校ではふつうの成績で、18歳になった時に、どんな仕事ができるだろうと迷った末、パン屋も悪くないと考えた」。パンタン市の見習い研修センターで2年間菓子作りを、1年間パン作りを学ぶ。このセンターのディプロム取得後に、見習いとして〈Grenier à pain〉に就職し、6年後にチーフになり、彼の焼くバゲットは評判になる。彼の店が誕生するのも間近いことだろう。
「少々気になるのは、今度の賞が〈すぐれたことをする郊外の若者〉というシンボル扱いされることだ。この賞にシンボルを求めるとしたら、仕事を愛し、パンの質を向上させるために精を出す職人というシンボルしかない」。彼のバゲットは、これから毎日エリゼ宮に運ばれ、大統領の食事の供をすることになる。セネガル生まれ、郊外団地育ちの若者が、フランス人のアイデンティティの一つを担うのだ。(真)