パリに隣接する町モントルイユに、世界中のアコーデオンアーティストたちが訪れる修理のアトリエがある。ローラン・ジャリさんのお店〈la boîte d’accordéon〉だ。よい感じにすすけた空間に、年代もののアコーデオンが色とりどりの光沢を反射させている。 ローランさんがアコーデオンに出会ったのは18歳の時。もともと音楽は身近な存在だったが、アコーデオンの音色は今までと違う感情を呼び起こした。「表現できる音の可能性に引き込まれた。エモーションとしかいいようのない何か」。その後は関連文献を読みあさる日々。ほどなくアコーデオン研究の第一人者であるピエール・モニション氏とも交流を重ねるようになるが、修理や楽器の構造について実践的に教える学校もなかったため、結局は独学で実践的に研究を重ねていく。そんな彼のひたむきな情熱は、1989年に念願の専門アトリエをオープンさせるということで形になった。 さて、アコーデオンの起源だが、中国にあるという。18世紀に中国のフリーリード楽器が欧州に渡り、主にイギリスとドイツで開発が進んだ。ローランさんによれば、フランスは「アコーデオンを大衆化させた国」と位置づけられるとか。やはり多くの人にとっては、ピアフをはじめ、古き良き時代のシャンソンの面影と重なってくるだろう。しかしジャズ、現代音楽、民族音楽など、様々なジャンルの音楽と相性がいいことも忘れてはいけない。「それに比較的歴史の浅い楽器だから、まだ進化の過程のただ中にあるのさ。カメレオンのように多様性を持った楽器だよ」。彼のアコーデオンをめぐる冒険は、まだ当分終りそうにない。(瑞) 店内はギャラリーのよう。 La boîte d’accordéon : 8 rue du Sergent Bobillot |
ローランさんお手製の楽器「アコーディナ」を手に。 道具は自分で工夫して リードをこすることで 「1回の修理に100時間も費やすこともあるけど、奥深い楽器なので飽きないよ」 「中身を見る機会ってないでしょう?」 |