美しい帽子作りの裏には、人の頭のラインを知り尽くした職人の仕事がある。パリの証券取引所近くにアトリエを構えるロレンゾ・レさんは、formier(フォルミエ)と呼ばれる世界でも数少ない帽子用木型作りの職人さん。シャネル、ディオール、サンローランと、お得意さまには一流メゾンの名前が並ぶ。 ロレンゾさんは祖国イタリアで彫刻を学んだ後、伯父を追って1962年に渡仏。彫刻の技術を活かしながら修業に励み、1966年ごろに一本立ちした。彼が仕事を始めた時代はパリだけで25人ほどの専門職人がいた。「一時は私のアトリエと同じ道沿いだけで4軒も同業者のアトリエが居を構えていたよ」。しかし時は流れ、世の中は大量生産一辺倒に傾いていく。オートクチュールが庶民から遠い存在となり、不況にあえぐ21世紀の現在、フォルミエはすっかり「知る人ぞ知る」職業に。 そんななか、今も一流のメゾンだけは、あくまで手作りの木型にこだわり続ける。「彼らはカシミヤや革、絹といった様々な素材を自由に使えることが重要なのです。大量生産で重宝されるメタル製の帽子型では、作業中にアイロンの熱にも耐えられません」。彼が使用するのは、木の中でもとりわけ暑さと湿気に強い菩提(ぼだい)樹だけなのだ。 さて、今や世界で数人しかいないというフォルミエの後継者問題が気にかかるが…。「今まで何人か入門してきたけど、途中で辞めてしまいました」。あらゆる基礎を学ぶだけで最低4年間は必要だが、若い人はその修業期間が耐えられない。しかも基礎を習得した上で、最終的には本人の曲線に対するセンスが問われていく。「帽子は曲線が要(かなめ)。でも曲線へのセンスだけは他人から学べない。40年以上この仕事をしていますが、毎日私も学ぶことだらけなんですから」(瑞) Lorenzo RE formier : 15 rue Paul Lelong 2e |
帽子によるけれど、複雑な型を作るのに、だいたい1日半くらいかかる。
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