薄暗くがらんどうな部屋の真ん中に置かれた車椅子の上のハムは、独りでブツブツつぶやいたり、クロヴをどなり散らしている。クロヴは「なぜ僕は君の命令に従うのかわからない」と嘆きながら、目の見えないハムをおそれている様子で、細々とハムの世話をやく。舞台の前方にある二つのドラム缶にはハムの父親と老女が暮らしていて、ハムは退屈すると父親に話しかけるが、あまりに性格の似ている父子の間に会話は存在せず喧嘩ばかり。そうこうしているうちに、父親の好物であるおかゆがなくなり、車椅子の車輪を取り替えるための自転車がなくなり、ハムの痛み止めもなくなり…とハムたちが生きる世界の終焉が近づいていることに私たちは気づく…
『ゴドーを待ちながら』に続いてサミュエル・ベケットの最もポピュラーな戯曲が、この『勝負の終わり』だろう。フランス語で書かれたこの戯曲の初演は1957年、ロンドンでだった。わずかでも希望を残した『ゴドー…』に比べ、主人公たちが絶望のどん底に落ちて行くストーリーがはじめは大衆に受け入れられなかったという。クロヴが出て行き、ひとりぼっちになったハムが「これで勝負は終わった」と言う。
ベケットはこの戯曲をチェスのゲームにたとえた。どんどんハムの家からなくなっていくものがまさにチェスの駒だと。ならば勝ったのは誰? 出て行ったクロヴだろうか、それともハムを待ち受ける「死」と「孤独」だろうか? ハム役のドミニク・ピノンが素晴らしい。モノローグの部分では背筋が寒くなる。クロヴ役を演ずるシャルル・ベルリングが演出を担当。(海)
Théâtre de l’Atelier : 1 place Charles Dullin 18e 01.4606.4924 M。Anvers
www.theatre-atelier.com 来年1月末迄。
火~土21h、日マチネ16h。7€~41€。