昨年末に公開され、たちまち台風の目となったアブデラティフ・ケシシュ監督の『la Graine et le mulet』。観る人に、鮮烈な印象を残したのが、豊かな黒髪、褐色の肌を持つハフシア・ヘルジのあまりに肉感的な腹フリダンス。観客が新しいマグレブ系女優の誕生に立ち会った瞬間だった。
父はチュニジア人、母はアルジェリア人。6人兄弟の末っ子として、マルセイユ北部で育つ。女優に憧れ中学時代からTVドラマで端役を得る。2005年にケシシュ監督の目にとまり、『la Graine』の大役に抜擢された。15キロの体重増量と、過酷なダンスのレッスンにも耐え抜き、ヴェネティア映画祭やセザール賞で、最優秀新人賞を獲得した。本作の成功後は、強いマルセイユ訛りもきっちり矯正し、順調に映画出演を決めている。
春に公開した映画『Française』では、親の都合で、生まれ育ったフランスからモロッコに嫌々移住した勤勉な娘を演じた。現実のヘルジも、自分が「フランス人」であることにかなり意識的のよう。「私はフランスで生まれ、フランスの学校に通った。〈同化〉について何も語れないわ。それは私の祖母に聞くべき問題よ!」
来年頭には、デ・シーカの傑作『ウンベルトD』のリメイク作品『Un homme et son chien』で、彼女の姿が見られる予定だ。(瑞)