ケルンとフランクフルトの間にあるジーゲンという町の出身、美術史家カリーナ・シェーファーさんは1993年からフランスに住んでいる。ほかの国を見てみたいという好奇心が強かった彼女は、高校卒業後外国の大学に進学希望。ヴィシーにフランス人の友人がいたこともあり、留学先は親しみのあるフランスに迷わず決めた。1992年に調印されたマーストリヒト条約後で留学がしやすくなったとはいえ、ドイツとフランスでは大学入学資格試験の時期の違いなどもあって入学はすんなりとは行かず、ドイツの大学に一旦入学して1年半後、クレルモンフェランの大学へ。そこで美術史と考古学を学んだ。
カリーナさんの専門は1900年前後の美術。この時期は新しいムーブメントが次々と生まれ、芸術観が大きく変化した時で、フランスは芸術の中心地として活力に満ちていた。しかしここでドイツ人ケスラーの存在を忘れてはいけない。芸術家の庇護者だったケスラーは、マイヨールなど、フランスの新しい芸術家を見い出したことでも知られ、この時期の美術史上重要な人物なのだとカリーナさんに教わった。ドイツで美術史家といえばローマ・イタリア芸術の専門家が多かったが、20年ほど前から19世紀末以降の研究が盛んになり、フランスで研究するドイツ人も増えている。ドイツとフランスの関係は、ケスラーとフランス人芸術家たちのように、再び密接になってきているようだ。
大学卒業後パリのドイツ美術史センターの研究員として働き始めるが、2001年ドイツに就職してケスラーの本の出版に携わる。だが2003年再びフランスへ戻り、以来フリーランスとして活動している。現在はナビ派の画家モーリス・ドニの作品目録の出版と、来年ドイツの美術館で開催される「ロダン」展の準備で忙しい。
フランスで気に入っているのは、自由な気質とおいしい食べ物。ドイツが恋しくない?という問いにはきっぱり「ノン」が返ってきた。ケルンまで電車で4時間しかかからないし、家族との距離はドイツにいても変わらない。それになんといってもフランスの食文化が気に入っている。胃の隙き間を埋めるだけになりがちなドイツの食事に比べて、フランスではゆっくり会話を楽しみながら食事を楽しむところが大好きだという。
ドイツとフランスでは人々の性質や習慣の違いも多い。フランスのレストランでは場所を指定されるまで入り口で待たされるが、ドイツでは見つけた席へ直行する。また、マイペースのフランスではコーヒー一杯の注文にもずいぶん時間がかかることもある。ドイツ人向け観光案内の仕事もしているカリーナさん。お年寄りの観光客が「ドイツ人だから差別されている」という時は、フランスではこれが習慣なのですよ、とそっと説明するようにしている。歴史を抱え相違点もあるけれど、隣同士の国、ドイツとフランス。それぞれのよいところをバランスよく取り入れていきたいというカリーナさん。そこには未来のヨーロッパ人がいた。
■ゲーテ・インスティテュート
世界各国でドイツ文化の紹介をしているゲーテ・インスティテュート。ドイツ語講座や図書館があり、その他さまざまな企画を催している。
Goethe-Institut Paris(イエナ通りの本館は来年まで工事中)
6-8 av. Raymond Poincare 16e(図書館・ドイツ語講座)01.4443.9230
31 rue Conde 6e(エキスポジション・ドイツ語講座)01.4046.6960
www.goethe.de/paris
●図書館
本、雑誌、CD、DVDなどが借りられる。
水・木・金 13h-19h(9/14から開館)
●ドイツ語講座
新学期は10月8日から。
(申し込みは9/26~28)
●ドイツ人若手写真家と新しい写真展
ドイツの主要な芸術大学の写真科出身の若手を、それぞれの大学で教鞭をとる著名写真家がセレクト。この秋はライプツィヒの芸術大学 Hochschule f殲 Grafik und Buchkunst からTimm Rautertが紹介する6人。
Viktoria Binschtok / Adrian Sauer
<Trompe-l’oeil> 9/7~10/1
Falk Haberkorn / Sven Johne
<Tropical Island> 10/5~11/5
Kristleifur Bjornsson / Alexej Meschtschanow
<White Night Lover> 11/9~12/3
●ヨーロッパ・バッハ・フェスティバル
今年の秋から始まるフェスティバル。パリではオルガン奏者 Michael Schonheitのコンサート。バッハやリストの作品を演奏。
11/20(16h-)無料。
サン・シュルピス教会 :
Place St-Sulpice 6e
●Musee Maurice Denis – Le Prieure
カリーナさんが作品目録の出版準備をしているナビ派の画家モーリス・ドニ(1870-1943)の住居だった建物は、19世紀末から20世紀初頭にかけての前衛芸術の美術館。ドニと同時代の重要なムーブメント:ナビ派、象徴派、後期印象派、ポンタヴェン派の作品が鑑賞できる、カリーナさんのお気に入りの場所だ。ドニをはじめ、ゴーギャン、セリュジエ、ボナール、ヴュイヤール、ルドン、ミュシャなどの作品を所蔵していて、現代美術の起源を知るにはもってこいの美術館。
ルイ14世の時代に王家の施療院として建てられた建物や庭も美しく、休日にパリを離れてのんびりするのにもいい。(仙)
2bis rue Maurice Denis 78175 St-Germain-en-Laye
01.3973.7787 RER A <St-Germain-en-Laye>駅から
バスE線<Le Prieure>下車
Allemage a Paris
■Maison Heinrich Heine 文化センター・図書館・ドイツ語講座
Cite Internationale Universitaire de Paris
27C Boulevard Jourdan 14e
Metro RER B – Cite Universitaire
01.4416.1300
www.maison-heinrich-heine.org
■Der Buchladen書籍店
3 rue Burq 18e
01.4255.4213
人文科学、文学、翻訳ドイツ文学、DVD、ビデオ、レンタルビデオ
■L’Office National Allemand du Tourisme
ドイツ政府観光局
01.4020.0188
www.allemagne-tourisme.com/
■Ambassade d’Allemagne 大使館
13/15 av. Franklin Roosevelt 8e
01.5383.4500
www.amb-allemagne.fr/
■Der Tante Emma Laden食品店
Marche St-Quentin – 85 bisハBd deハMagenta 10e – 01.4246.5117
火~土 8h30~13h, 15h30~19h30
日、祝 8h30~13h00
www.tante-emma-laden.fr/
■Monoprix Saint-Cloud
65 bd de la Republique
92210 Saint-Cloud
01.4771.1717
月~金 9h~21h30 / 土 8h30~21h30
ドイツ食品専門のスタンドがある。