ジャン=マルクさんが子供時代を過ごしたピガールのクリシー大通りには、毎年ノエルのころに仮設の遊戯場が並んだ。メリーゴーランドの片隅から「ゲッゲッ」と笑うお化けの声が、今でも耳から離れない。グレヴァンろう人形館に出かけるのが楽しみ。古い装飾や古城の図鑑を眺めだすと、つい夢中になって夜を明かすこともある。
「僕の仕事は乗り物の設計だけじゃなく、空間作り全体に関わるんだ。まずは主題を決めて、時代と国を設定。例えば18世紀の没落貴族の館に迷い込んだ僕たち…という風に、シナリオをもとに雰囲気を作っていく。まるで短編映画のようにね」
アトラクションを巡って、世界中を旅した。日本では〈ひかり〉に乗って、全国の遊園地を制覇。「世界一カッコいい列車は〈のぞみ〉だよ。残念ながら、ジャパンレイルパスでは利用できないから、近くで眺めるだけだったけど」。別府の城島後楽園では、彼の風貌を見た女子高生に、「となりのトトロだ!」と囲まれたことが、ちょっとした自慢でもある。
大きな体に柔和な表情の「子供魂」を持つ人。奥さんと暮らすアルフォールヴィルの300m2の自宅は、ほぼ玩具博物館と化している。お気に入りの場所は12区の〈coulée verte〉。「あそこを歩いていると、まるで『スタンド・バイ・ミー』の登場人物になったような気分なんだ」。その〈coulée verte〉を支えて並んでいる大きなアーチの部分を再利用した工房やブティックには、小さな冒険物語が隠れているという。
「街として面白いのは、断然右岸だよ」。3月末からヴァンセンヌの森にお目見えしている、期間限定の遊園地〈フォアール・デュ・トロンヌ〉には、ジャン=マルクさんの手がけた乗り物もある。「TVゲームでは分かち合えないリアルな印象を、乗り物を通して受けて欲しい。家族や友だちや恋人と、体感することを共有してもらいたいんだ」(咲)
●la Promenade plantee
通称〈La coulee verte〉と呼ばれる緑の散歩道。1969年までは高架線として使われ、パリ郊外を結ぶ電車が走っていた。4.5キロの長い道のりは、オペラ・バスチーユの裏からヴァンセンヌの森まで続く。両脇には菩提樹が並び、時おり緑のトンネルや、芝生の公園がひょっこり顔を出す、12区の憩いのスポットだ。まるで遊園地のモノレールの上を歩く感覚で、空の散歩を楽しんでみたい。(咲)
穴。
社会保障、セキュリテ・ソシアル(ラ・セキュ)の事務所が移転した跡の、ブロックで塞がれた壁に大きな穴のグラフィティがあった。
フランスの社会保障は140億ユーロの赤字で、その穴は年々大きくなるばかり。
無駄に薬を処方し過ぎるとか、被保険者の保険濫用、ごまかしなど、「医者や病人たちの悪い習慣を改めさせるべきだ」とドゥスト=ブラジ厚生相はいう。この穴埋めに被保険者は診察一回につきプラス1ユーロを払い、入院費の負担割合は増し、それでも運営難は続き、行く行くは社保の役割を民営の保険会社に肩代わりしてもらうという構想だ。お金のない病人からどんどん穴に落ちてゆく、公共の病院も、看護人も穴に吸い込まれてゆく、というシステム改正(!)なのだろう。ところが、タバコ税、酒税など国民の健康のためといわれている、本来セキュに入るべき分を計算すると200億ユーロの収入増になるという報告もある。システムの欠陥?ずさんな運営?セキュの穴は本当にあるのでしょうか。(麦)
http://www.ccomptes.fr/Cour-des-comptes/publications/rapports
/secu2004/introduction.pdf(会計検査院サイト)
http://www.sudversailles.org/telechar/secuco92.pdf “Ne laissons pas le gouvernement et le MEDEF mettre la Secu au trou”