02年2月、パトリス・アレーグル(35)はトゥールーズ地域で犯した殺人5件、殺人未遂1件、強姦5件の犯罪で無期懲役刑が下った。彼は17歳からアルコールと麻薬に浸り、売春宿に出入りし始める。連続殺人は89年、彼が21歳ごろから始まり、ほとんどの被害者がワンルームかホテルの一室で首を絞められるかナイフで咽を切られ焼死体でみつかる。巡査だった父親が警察内部で尻拭いしてまわったのか、ほとんどの被害者は”自殺”として葬られ、アレーグル容疑者が逮捕されたのは97年になってから。これで娼婦シリアルキラー事件は決着したとみられていた。 アレーグル事件に関しては、末端の巡査から上官まで同じ穴のムジナとなり、調査が封じられるなかで数人の一徹な巡査からなる《殺人31捜査班》ができた。捜査班は同事件と関係のあった元娼婦ファニーとパトリシアを探し出し今年2月以来、彼女らからの聴取が可能になった。 元娼婦らの証言は、彼女らが町の名士らの娼婦であると同時に、街中で家出娘らを誘い売春を仕込み、アレーグルが組織するシャトーでのサドマゾ・パーティーに彼女らを送り込み(ファニーも参加)、これらのパーティーには、ドミニック・ボディス元トゥールーズ市長・現在視聴覚高等評議会会長を始め、主席検察官、次席検察官らも参加していたと衝撃証言。さらにパトリシアは仲間リンヌと、91年暮れ、新米の売春婦(20)をアレーグルが拷問に近い強姦後、足にセメントを固め湖に投げ込んだのを目撃。92年1月初めリンヌが警察にアレーグルを密告した翌日、リンヌはパトリシアの前でアレーグルに惨殺された。同年2月にはサドマゾ・パーティーをビデオに撮った男娼C・マルティネーズもアレーグルが殺したと、5月12日、22日とパトリシアは予審判事に証言。 元娼婦らの証言は物証に欠けると言われるなかで、5月30日、受刑以来黙秘し続けてきたアレーグル服役者が予審判事に供述を申し出ると同時に、民放局カナル・プリュスのニュースキャスター、カール・ゼロ氏に告白の手紙を送り、6月1日、同キャスターが手紙を読むという番狂わせ。手紙の中でアレーグルは、元娼婦らの証言をほとんど認めるほか、マルティネーズ殺害については、彼が撮ったビデオに映っていると思われる高官からマルティネーズ抹殺の指図があったこと、またリンヌ殺害もある警官が彼女の抹殺を指図したと述べている。 トゥールーズ市民の受けた衝撃は、なんといっても父親(71~83)とも二代にわたり市長を務め(83~01)、現在視聴覚高等評議会会長として、テレビでのポルノ映画放映抑制策を進めるボディス氏(56)の名がこれらの証言に挙っていることだろう。ボディス氏はイエズス会で学んだこともありトゥールーズの鏡、「まさか、信じられない」と政界人も市民も絶句。 噂と真偽不明の証言の渦に巻き込まれたボディス氏は、アレーグル事件の調査資料を得るため自ら取り調べを申請。名誉回復の苦難の闘いが始まる。(君) |
殺害5件、強姦5件 (89~97) 判決済み |