カミCami(1884-1958)という劇作家をあなたは知っている? 私はその名すらも知らなかった。『ウジ虫たちの笑い』という冗談みたいな題名に惹かれて見に行ったのがカミとの出会いだった。馬鹿馬鹿しくても(Ridicule!)思わずその馬鹿馬鹿しさを楽しんでしまう…プレヴェールは「まるで雌鶏の脳みその中にあるピアノの卵のように、冷酷で単純な論理」とカミを絶賛(?)し、ローラン・トポールもカミを尊敬してやまなかった。劇作、作詞、作曲、映画脚本執筆…などマルチ分野で才能を発揮したカミは、今の世の中に生きていたらさぞ重宝がられていたことだろう。 クリストフ・ロックが演出する劇団”Terrain Vague” の5人によるカミの短劇は、テンポがよくてとても創造的。ときには工事現場を見るような騒がしさや、スポーツ観戦をしているようなめまぐるしさ、人体実験をしているような緊張感までがごちゃごちゃになってぎゅーぎゅーと詰まっている。赤頭巾ちゃんの二の舞は踏むまい、と心に誓う緑頭巾ちゃん、絵に描いた人工臓器を身につける家主を持つ一家、誘拐されハーレムに閉じ込められた婚約者を救うために性転換をしてしまう男…ナンセンスな短い話の登場人物たちは、いずれも残酷なほど饒舌でちょっと意地悪だけれど、間抜けで憎めない。心行くまで笑った後、舞台の中心に据えられた黒板に描かれているカミの横顔を見ながら、この奇抜なアイデアとユーモアの持ち主に拍手を送った。(海) |
* Theatre de la cite internationale : |
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●L’ombre si bleue du coelacanthe 若いころは国際的テロリストグループの活動に参加していたが、今は南太平洋の島で隠遁生活をしている男とその妻、スイスの寄宿学校を逃げ出してきた夫婦の娘、夫婦を追ってヨーロッパからわざわざ訪れる元弁護士、島で生まれ育ちシーラカンスをとることに熱中する若い男。これらの5人が織りなす人間模様。自称画家の男は、娘に過去の秘密を話すことができず、妻は夫の親友でもあった元弁護士と肉体関係があったことを内緒にしている。大人たちの胸の底に残るわだかまりを感じとる敏感な娘は、皆の沈黙を忌み嫌い、シーラカンスの話を熱心にする若い男に惹かれていく。ジャック・テシエ(自らも元弁護士役で出演し、渋い演技をみせる)の劇をクリスチーヌ・テリーが演出。脚本も個性的で台詞回しも美しい。舞台美術と照明にも工夫が凝らされているが、舞台の流れ全体にメリハリが欠けるのが残念。 |
*Sudden Theatre : 01.4262.3500 12/16日まで |
●Paris la grande パリに魅せられた詩人たちが遺した称賛の数々を、やはりこの美しい都を敬愛するフィリップ・メイヤーが朗読したり、歌ったりしながら綴っていく。ヴェルレーヌ、ユゴー、ランボー、ボードレール、フェレ、ブラッサンス、プレヴェール…。フィリップ・メイヤーは、テレビやラジオ番組で、独特の語りを提供してきた人。パリに捧げる一冊として彼が記した同名の本は、ベストセラーになった。フランス語は何と美しい言語だろう! パリはなんて素晴らしい街なのだろう! と再認識する1時間半。12/16日まで。 * Theatre Mouffetard : 01.4331.1199 |