フランソワ・オゾンの最新作『砂の下/ Sous le sable』は、内容もスタイルも大人の映画! 『ホームドラマ』のキッチュでパロディーな笑いも、『クリミナル・ラヴァーズ』の青少年の犯罪がお伽噺にスライドする感覚も、『焼け石に水』のカップルの悲劇を70年代の空気でくるんだ遊びも、もうここにはない。オーソドックスで、正面切った演出だ。『焼け石に水』のカップルは、お盛んな年代の急造カップルで、力関係の中に悲劇の種が蒔かれていった。『砂の下』のカップル (シャルロット・ランプリングとブリュノ・クレメール) は25年寄り添った円熟のカップル。
映画は滑らかに始まる。二人が、海辺の別荘で休暇を過ごしている。いつものように…。異変も静かにやって来る。夫が海へ泳ぎに出たまま帰って来ない。理性的な妻はパニックを露骨に表には出さない。消えたままの夫を残してパリに帰り、日常生活に戻る。夫は溺死したのかも知れないが、その証拠は上がっていない。でも、二人だった生活は一人の生活になっている。こういう状況に置かれた時、ヒトの感情はどういう反応を起こすのだろうか? 何を考え、どう振る舞うのだろうか…? これを、オゾンは、シャルロット・ランプリングという肉体と精神を借りて探るように描く。彼女は一見とても理性的に見えるが、実はちょっと変かも知れない。夫への想いが、軽い狂気をまねいているのかも知れない…。冷静に彼女を見つめていた映画も、最後はグッグッと感情に迫って来る。
(吉) はオゾンの”ぶっ飛び”をこよなく愛してきたので、少々戸惑っている。しかし、”ぶっ飛び”は趣味の枠を超越できない。”正統”は、よりグローバルに人の心を掴む力を持っている。降参! (吉)