Bir Hakeim界隈(15区)
12歳で祖国シリアからフランスに移住したラシャ・アバジェッドさん。80年代後半、多感な時期の数年を15区のボーグルネルで過ごした。そして時は流れ、現在職場として通うのが同区のビルアケム界隈。エッフェル塔観光の最寄り駅もここだ。「このあたりは観光客が主役。駅周辺には観光客向けのカフェやみやげ屋が多く、泥棒もいるから要注意ですね」
パリ20区の中でも人口最多の15区は、住宅地がパッチワークのように肩を寄せ合う。ラシャさんが住んだ近未来風高層アパートが集まるボーグルネル、オスマン様式の高級アパルトマンが並ぶグルネル、緑や教会が村的な雰囲気を残すヴォジラールなど多彩な顔を持つ。「でもビルアケムは特に異質。住宅街の中に、観光地がアネックス(付加物)としてある」
だからこそ異邦人の目を喜ばせる景観もある。至近距離で迫るエッフェル塔、セーヌ川沿いの遊歩道、映画『ラスト・タンゴ・イン・パリ』に登場する壮麗なメトロの高架線。ガラス張りの外観が眩しいパリ日本文化会館も存在感たっぷりだ。「会館は1997年に華やかにオープンしました。今も近くのケ・ブランリー美術館同様、15区の文化シーンの盛り上げ役。常に上質の映画上映やスペクタクルが見られます」。ラシャさんがなぜ詳しいのかといえば、彼女の勤務先こそ同館の図書館だから。かつて日本の大学で学び、帰国後はフリーの編集者として、林芙美子ら日本人作家の作品をフランスに紹介してきた彼女にふさわしい職場だろう。
しかし彼女の素顔はそれだけに留まらない。15区に劣らず多彩な顔を持つのだ。目下、シリア情報を発信する非営利団体の運営にも力を注ぐ。紛争の陰で見落とされがちなシリアの文化に光を当て、他民族との連帯を強化することが目的だ。奇しくもラシャさんに話を聞いたのは3月11日、そして…。「3月15日はシリア紛争の開始日。3月は大切なふたつの国に大きなことが起きたから、心がざわめく奇妙な月なのです」(瑞)
●La Maison de la culture du Japon à Paris
「展覧会、映画、コンサート、芝居、講演会が目白押しの日本文化会館。4月30日~6月21日は、日本でも好評を博した目玉企画『エヴァンゲリオンと日本刀』展。質の高い蔵書が揃う図書館もパリの穴場。火~土12h-19h(木曜は20h迄。図書館は18h迄)。日月祝日休。
101 bis quai Branly 15e 01.4437.9501
●La Comédie Tour Eiffel
ワンマンショーや子供用スペクタクルが充実している50席のミニ劇場。ラシャさんも娘さんとよく出かけるという。4月のバカンス中は、セギュール夫人原作『Mémoires d’un âne』を上演。演劇教室も実施されている。
14 rue Desaix 15e 01.7717.8504
www.craccoyer.free.fr
●Erawan
ビルアケム駅周辺は観光客向けの店が多いので、美味しい店を探すには少し歩くとよい。本店は日本文化会館のスタッフも通う本格タイ料理レストラン。世界三大スープ、トムヤムクンも美味。
予算は15€-30€。
月~土12h-14h30/19h-22h30。 日休。
76 rue de la Fédération 15e
01.4783.5567
ラシャさんの非営利団体が シリアの子どもを支援するため制作した絵ハガキ
パリ日本文化会館の図書館で働くラシャ・アバジェッドさん。
ビルアケム橋。
パリ日本文化会館。
セーヌ川河岸にある高層ビル群。
散歩に最適な「Allée des cygnes 白鳥の道」もビルアケム橋から。