18世紀に実在した軍艦を復元
大西洋につながるフランス西部の町ロシュフォール。ジャック・ドゥミの『ロシュフォールの恋人たち』の撮影地としても知られるこの町で、壮大な計画が進行中だ。それは18世紀に実在した軍艦〈エルミオーヌ号 L’Hermione〉を、昔ながらの方法で復元し、完成の暁には実際にアメリカのボストンまで航海させるというもの。
エルミオーヌ号は、言うなればフランスとアメリカの「友情のシンボル」。アメリカ独立戦争中の1780年、義勇兵となり現地に乗り込み、「両大国の英雄」と称された若きラファイエット侯爵が、ロシュフォールから大西洋を渡った時に乗った船だという。復元計画が浮上したのは今から20年前。作家のポール・ギマールら数人の有志たちにより計画が練られ、1997年に建造に着手。現在は再来年のアメリカ航海に向け、復元作業の最終段階に入っている。
その作業現場は、進化するミュゼとして当初から一般公開されてきた。現在は作業の最終段階につき、実際に作業する様子こそ見られなかったが、作業現場をそのまま残した工房が見学でき、帆や大砲、船内外の装飾品などが展示されていた。エルミオーヌ号そのものは浸水式を終え、見学者は甲板に足を踏み入れることができる。この全長47m、3本マットのカラフルな木造帆船が、近い将来、実際に大航海に出発するのかと思うと不思議な気持ちがする。
復元には2500万ユーロ(約33億円)もかかるが、入場料、関連グッズの売り上げ、本プロジェクトを推進する非営利団体の会費収入だけで費用の60%以上を捻出(ねんしゅつ)。復元作業に足掛け15年をかけるのは、長い期間に渡って収益を得ようとする計算もあるのだろう。また軍港として重要な位置を占めたロシュフォールの歴史を再確認し、市の共同遺産として内外に広くアピールすることもできるはずだ。今やエルミオーヌ号は、年間25万人の入場者を数える重要な観光スポットであり、同時に市民の誇り。歴史遺産に価値を見出し、アイデアひとつで壮大な計画を実現させうるフランス的手腕に、日本もまだ学べるところがありそうだ。(瑞)
エルミオーヌ号は、Musée de la Marine脇に係留。
10h30-12h30/14h-17h30(12月、2月、3月。12/25-1/1、1/7-2/10休)。10h-19h(4月-6月)、10h-20h(7月、8月)。
9€/5€(15歳未満)/無料(6歳未満)。www.hermione.com
大砲の玉。
軍艦の帆を作っていた工房。
船体の構造ができ上がった頃の写真。
見学者は甲板にも上がれる。